第19回 大島伸矢(スポーツ能力発見協会理事長)「“好き”や“得意”に出会う場を」
「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。多方面からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長、二宮清純との語らいを通し、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。
今回のゲストはスポーツ能力発見協会(DOSA)理事長を務める大島伸矢氏です。DOSAは子どもたちの身体能力を正確に計測し、得意・不得意のスキルを見つける測定プログラム「SOSU」を開発しました。子どものスポーツ能力の測定や向上をサポートする大島氏が描くスポーツの未来図とは――。
二宮清純: 子どもの運動能力を測定する事業を始めたきっかけは?
大島伸矢: 僕自身、スポーツが好きだから“スポーツをもっと深堀りしたい”と思い、スポーツの運動能力測定をしたいなと考えたんです。しかし、日本では学校の体力測定以外のものがない。しかも、その測定の仕方はすごく曖昧なんです。測る人のストップウォッチを押すタイミングで、結果が変わってしまう。だから公平な測定方法が必要だと考えました。ただ測定するだけでは面白くない。エンターテインメント性もありながら適性スポーツを見つけていこうというテーマでスタートしたんです。
今矢賢一: 実際に測定される時は、いくつかのプログラムをイベント会場などで実施するのでしょうか?
大島: 今やっている測定は、「10mスプリント」「敏捷性」「ジャンプ力」「リカバリーバランス」「反応ステップ」「スイングスピード」の6種類です。各項目測定結果を元に、国体やオリンピック種目など64種類のスポーツの中から向いているスポーツを出しています。
二宮: 海外ではどうなのでしょう?
今矢: オーストラリアに8年ほど住んでいましたが、スプリント、ジャンプ力を測定するものは見たことがあります。リカバリーバランスなどは、トレーニングのひとつとしてあるけど測定では初めて知りました。
二宮: 機材はどのようなものを?
大島: 日本にはほとんど測定機器がなく、当初はオーストラリア、ドイツ、イタリア、スイスの製品でトップアスリートが使う高額な測定機器を使用していました。プロのアスリート向けで、トレーニング用のものを使用していました。1つの測定をするのに1つの機器を使用していたので、いろいろな測定をするためには多種な機器が必要で持ち運びも大変でした。そこから1つの機器で多種の測定ができるようモーションキャプチャーカメラで全てを測定できるものを開発しました。正確な測定をするために、カメラで動きをとらえ、データをはじき出しています。その数値から、我々が開発したソフトを駆使し、向いているスポーツを割り出すシステムになっています。
今矢: そのプログラム化されたシステムが御社独自ということですね。
大島: ええ。動作解析をするためのカメラには約50万円かけています。1秒間に120ショットの撮影が可能です。国立科学スポーツセンター(JISS)に入っているカメラとも精度はほぼ変わらないものを使っています。
二宮: 民間で持っているのはDOSAだけですか?
大島: そうですね。このカメラとソフトを組み合わせたものをこれから販売していくのか、貸し出していくいのかは、考えているところです。
二宮: 自分に向いているスポーツがはっきりとわかれば、その競技を好きになる場合もあるでしょうね。
大島: そうだと思います。子どもがスポーツを始めるきっかけは親に勧められるか、友達がやっているかが多い。そうなると種目も数えられるほどしかない。マイナースポーツはやる機会、知る機会も少ない。向いているスポーツを知れば、子どもたちが興味を持つと思うんです。我々のHPでは、そのスポーツがどこで習えるのか、どこで体験できるかなども紹介しています。とにかく体験し、“好き”と“得意”が一致するものを夢中で頑張ろうと。いろいろなものを体験していただき、“家の近くでやれる場所があるんだ”ということで始める方もいるかもしれません。それでやってみて、面白ければそのクラブに入っていくという流れになっています。
クロススポーツの重要性
今矢: 測定の対象年齢に制限はあるのでしょうか?
大島: 下は小学1年生から、上は高校3年か大学4年までとしています。そこはデータの考え方で、もっと下や上に広げることもできるのですが、サンプル数に依存してしまったり、正確な数値が出てこない可能性があるからです。だから皆が日常的に運動をやっているような世代、特に小中学生ぐらいが一番良いと考えています。
今矢: 私も小学生が一番いいと思います。今の日本のカリキュラムだと、どちらかというと体育が苦になられる子たちもいるじゃないですか。それで体を動かすことすら嫌いになってしまったら、悲しいことです。
二宮: 日本の学校には部活というものが存在します。現在は外部から指導者を入れる動きもありますが、DOSAとの連携もあるのでしょうか?
大島: それも考えていきたいと思っています。ウチは基本的にチラシを配布しているんですが、測定会は基本的に土日に開催しています。そうすると部活動をやっていると子どもたちは来られない場合が多い。どうしても部活の方が優先されてしまいますから。
二宮: 地域のスポーツ少年団との連携はあるんですか?
大島: それも今のところはないですね。今は向いているスポーツを出していますが、現在はサッカー特化型やバスケ特化型というものを種目ごとにつくっていきたいと思っています。たとえばサッカーの場合、ドリブルが苦手な理由はどの基礎能力にあるかを見つけ出す。切り返しが下手、ジャンプ力がない、スピードがない。そういう基礎能力を伸ばすことで、ドリブルテクニックを磨くこともできる。あとは測定により、子どもの成長を可視化できる利点もあります。ドリブルが上手くなっていなかったとしても、基礎能力は伸びているなどと、その子の成長がわかれば、指導者が褒めることにも繋がる。これらを少年団向けに、展開していこうと考えています。
二宮: 元々、スポーツ少年団は1964年の東京オリンピック前後に結成されました。当時は複数種目やっていましたね。私も冬はサッカー、夏は野球をやっていたんですよ。ところが、いつの間にかスポーツ少年団もサッカーをやる子はサッカーだけ、と種目特化型に変わりました。そうすると人気のある競技に選手や指導者が偏ってしまう。昔はスポーツ少年団もバランスよくスポーツを体験させていたんです。それを踏まえればDOSAとの親和性は十分にあると思うんですよ。一緒にできることもあるはずです。
大島: そうですね。我々も「複数のスポーツをしましょう」と言っています。「サッカーがうまくなりたければ、違うスポーツもやらないと。サッカーの練習だけをしていたら、サッカー筋力しか成長しないよ」と。中学生になり部活に入ってしまうと、なかなかそれも難しいので、せめて小学生だけには複数スポーツをして全体の運動能力や筋力を伸ばすように呼びかけています。
二宮: クロススポーツの重要性はよく言われますね。柔道のオリンピック金メダリスト・鈴木桂治さんは足技がうまいけど、元々はサッカーをやっていましたから。
大島: サッカー元日本代表の秋田豊さんは野球をやっていました。秋田さんのヘディングが強いのは誰よりも先に落下点に入れるからだそうです。フライを捕るために、誰よりも先にポジションを確保できる術が身に付いたんだと。
今矢: それはすごくわかります。僕もサッカーに加え、バレーボールもやっていました。だからヘディングが得意でした。身長の高さを理由にする人もいましたが、それは違う。バレーで身に付いた空中感覚がヘディングで勝つことに繋がったんです。
二宮: なでしこジャパン元監督の佐々木則夫さんも「昔の選手はヘディングがうまかった」と言っていましたね。なぜかというと多くの男の子が野球をやっていたから。最近の子は野球をやっていないから、空中感覚が鈍い、と。
大島: おっしゃる通りだと思います。今は野球人口が減っている。空間把握能力がなくなってきているんですね。キャッチボールも、その能力を養うためにすごく大事なこと。アフォーダンス能力というものがあります。リュックを背負っているのに、その意識を持って街を歩けないので、人に当たっちゃう。野球でバットやグローブを体の一部として動くことを体験していれば街で人にぶつかることも車で壁にぶつけることも減るでしょう。それは空間把握能力を小さい時に身に付けていないからです。
筋肉の質を測る
二宮: 今後はどのような活動を?
大島: 我々は動きの測定だけをしているんですが、筋肉の質も測定したいと考えています。遅筋や速筋、強い弱い、怪我しやすいかどうかを知る。子どもの頃から筋肉の質はあまり変わりません。だから、“この子はあまり負荷をかけずにこういうトレーニングメニューでやっていこう”と、その子に合った指導方針がつくれるんです。得意なものは持久力系なのに、無理にダッシュやうさぎ跳びばかりをガンガンやらせていたら、故障してしまうリスクがあります。今の学習塾もそうですが、1対1の指導が増えてきている。スポーツも限りなく1対1に近いトレーニングをしていかないと、その子のパフォーマンスは上がらない。そのためには動きと、筋肉の質を知る必要があると思いますね。
二宮: 中国では掌からレントゲンを撮り、将来の身長を予測しています。スポーツを選択するためのひとつの目安になる。しかし、そこまでやると今度は自由度がなくなる。線引きが難しいなと思ったんですが、大島さんはどうお考えですか?
大島: スペインサッカーのラ・リーガも子どもが身長どれくらい高くなるかを把握して獲るか獲らないかを決めているそうです。そこはカルシウムの量でわかるんですね。関節にカルシウムがどれだけ残っているか。そうは言いつつも身長が低くてもリオネル・メッシのように活躍できる人たちもいる。だから現状を把握し、自らの長所で勝負をかけていくという選択肢に持っていく方がいいと思うんです。フィジカルが弱ければ、他の長所で補う。この能力ではサッカーや野球が無理だ、ではないんです。諦める必要は全くない。自分の武器を明確にし、それを生かしていくことが大切です。
今矢: パラスポーツの向き不向きも測定できるんですか?
大島: はい。通常の測定を応用するかたちになります。たとえば「反応ステップ」を計測する時、通常は足で反応を計るんですが、車椅子の場合は手の反応を見たりします。あとはモーションキャプチャーを使わずに計測することもあります。障がいのある人でも、その子の武器を明確にし、向いているスポーツを発見する。そうすることで、パラリンピックやスペシャルオリンピックなど大きな目標を立てることもできます。
二宮: 今回の新型コロナウイルスの影響で、世の中の景色が変わりました。コロナの暗雲を振り払うためにも、スポーツの再開が待たれます。
大島: そうですね。スポーツ離れが進み、不健康になっていくと、働けなくなる人が増えるかもしれない。学校の体力測定が今年は中止になりましたが、今だからやるべきだと思います。どれだけ体力が落ちているかを知る必要がある。我々は47都道府県でなんとか測定したいと考えています。全国を回り、測定をする。その体力データが、47都道府県におけるコロナの発症率と、どう相関関係があるかも知りたい。今後はそういったことも含め、活動していきたいです。
<大島伸矢(おおしま・しんや)プロフィール>
1970年4月10日、福岡県生まれ。大学卒業後に就職・企業を経験した後、07年に能力の精密測定を事業化、知育面で活用するプライム・ラボを設立。14年には一般社団法人スポーツ能力協会(DOSA)を設立し、理事長に就任。プロが使う測定ツールで子どもたちの身体能力を正確に計測し、得意・不得意のスキルを共有して早く「好きで得意なこと」に出会える場を提供する測定プログラム「SOSU」を開発。子どものスポーツ能力の測定や向上をサポートしている。DOSAのアスリート支援プログラム「DOSAパラエール」、リクルートキャリアとのコラボ「障がい者アスリート応援プロジェクト」などパラスポーツの支援も行っている。著書に『子どもが伸びる運命のスポーツとの出会い方』(枻世出版)。
(鼎談構成・写真/杉浦泰介)