(写真:「あっという間の5年間だった」と振り返るJSRAの渡瀬CEO)

 9勝1分け58敗――。ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズが2016年からスーパーラグビー(SR)に参戦し、5シーズンの通算成績だ。勝率は2割に満たない。SRを運営するSANZAARとの契約が切れ、“ラストシーズン”となるはずだった2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、シーズン終了を待たずして別れを告げることとなった。

 

 3月14日以降、中断となっていたSRはニュージーランド、オーストラリアでの開催が検討され、サンウルブズもオーストラリアでの参戦を目指してきた。しかしオーストラリア協会と連携を取ったものの、リーグ戦再開までの準備が間に合わないという決断から最終的には参戦を断念した。サンウルブズを運営する一般社団法人ジャパンエスアール(JSRA)は6月1日に公式発表し、翌2日にはWEB会見を行った。

 

 会見でJSRAの渡瀬裕司CEOはこう語った。

「まだまだ伸びしろのあったチームだったがゆえに、このようなかたちでシーズンを終えることとなり、我々を支えてくれたスポンサーの皆様やファンの皆様には申し訳ない気持ちでいっぱいです。何より覚悟を持って集まってくれた選手、スタッフは本当に無念だったと思います。選手、スタッフにもこれを学びとして今後のキャリアに是非とも活かして欲しい」

 

 ラストシーズンの指揮を執った大久保直弥HCは「率直に言って、こういう終わり方になってしまったことは残念です」と悔しさを滲ませながら言葉を紡いだ。

「今シーズン、一言で説明するのは難しいんですが、選手には『胸を張って欲しい』と伝えました。こういう結果になったことで選手、チームの努力が否定されるわけではないと思っている。日本のラグビーの歴史に名を残すチームであったと思います」

 

(写真:サンウルブズ“最後”の指揮官となった大久保HC)

 日本代表(ジャパン)の強化のためにスタートしたサンウルブズ。多くの選手がSRデビューを果たし、レベルの高いラグビーを体感することができた。1日のシーズン終了発表後は、かつてサンウルブズに所属したジャパンの選手たちが感謝の思いをSNSに綴った。日本ラグビーフットボール協会の森重隆会長は協会を通して、コメントした。

<サンウルブズの5年間の軌跡は決して消えるものではありません。昨年のラグビーワールドカップにおける日本代表の活躍が語られるとき、等しく、サンウルブズの存在がその活躍を導いたと、多くのファンの方々に語られていることがそれを証明しています>

 

 SRの参戦はこれで一旦幕を閉じる。渡瀬CEOは「今後については何も決まっていません」と話すにとどまり、こう続けた。

「元々は2019年のワールドカップで日本代表が勝つための器としてこのチームが生まれ、SRに参戦してきました。その役目は十分に果たしたと思っています。ただ我々が想像する以上に多くのファンの方々がこのチームを応援し、競技場でも大きな声援を送ってくれました。どこにもないサンウルブズの応援のカルチャーを作ってくれましたし、それらを十二分に皆で再認識した上で、日本協会がメインになりますが、考えていけたらと思います」

 

 狼の遠吠えを真似る独特の応援方法など、サンウルブズは「どこにもない応援カルチャー」(渡瀬CEO)を作り上げた。狼の遠吠えには、仲間との絆を深める意味もあるというが、国内に新たなラグビーファンを生んだ。大久保HCが「僕個人としては何らかのかたちでもいいので、サンウルブズの名前を残してもらえればうれしい」と口にしたように、存続を望む声も少なくない。だがチームの主戦場、選手・スタッフ、練習環境を確保するための資金も必要となるため、容易ではない。JSRAと日本協会の協議で、どのような結論を下すかに注目したい。

 

(文/杉浦泰介)