ダイヤの原石を見抜くオトコたちの熱い闘い<前編>

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 日本高野連は10日、今春中止となったセンバツに出場予定だった32校で行う「2020甲子園高校野球交流戦」の開催を発表した。同交流戦は8月10日から12日、15日から17日にかけて行われる。これに伴い、エンジンがかかるのがスカウト活動である。スカウトマンは、光る原石を見つけるために様々な工夫を凝らす。目利きのプロフェッショナルでもある。21年前にスカウトについて記した原稿を、今一度、読み返そう。

 

<この原稿は1999年6月23日号『Tarzan』(マガジンハウス)に掲載されたものです>

 

 先頃、心筋梗塞のため急逝した福岡ダイエーホークスの根本陸夫球団社長といえば、日本で初めてゼネラル・マネジャーとして成功を収めた人物だった。西武ライオンズの総帥として“獅子王朝”の礎を築いた。

 

 1982年、自らが招聘した広岡達朗監督の手で念願の日本一を達成。その時のセリフがふるっていた。

 

「人間には与えられた役目がある。家を建てる時にも、最初は地ならしの土木工事から始まって建築家が入り、最後はインテリアで仕上げる。僕の場合は、さしずめ土木だった。西武に移っての3年間で土木工事は終わっていた。それをうまく広岡につなぐことができたんです」

 

 1968年、広島カープの監督に就任する前、根本はスカウト、スコアラー、コーチなど、あらゆる裏方の仕事を経験した。

 

 とりわけスカウトとしてのキャリアは、根本に球界随一といわれる人脈をもたらせた。アマチュア球界に網の目のように張りめぐらせた人脈を情報源として、ライオンズ時代、根本は有望選手を集めまくった。

 

 これは球界のみならず企業にもいえることだが、一番大事なのは人事なのだ。根本はそこに真っ先に気付いた野球人だったといえるかもしれない。

 

 生前、根本はこう語っていた。

「時間があれば、僕は中学にだってリトルリーグにだっていくよ。とにかく、自分の目に一度、通すことが大切なんだ。師匠である藤田省三(元近鉄監督)に僕が教わったのは、人に教わらず、自分の目と記憶だけで調査しろということ。人に教えちゃいかんし、問いてもいかん。それは徹底していわれたね。

 なぜなら、10人スカウトがいたとして、皆が同じ角度から野球を見始めたら、スカウトはひとりで充分ということになるでしょう。皆が皆、違う角度から選手を見ることによってしか個性のある選手は集められないんだから。自分の好みを他人に強制しちゃいけないということです」

 

 眼力が試されるのはドラフト4位以下……

 

 甲子園を目指した夏の地方予選が各地で始まった。

 

 プロ野球のスカウトにとっては、文字どおり戦いの季節である。目をつけている選手がどれだけ伸びているか、あるいは成長がストップしているか、故障はしていないか……それを目をさらのようにして見究めなければならないのである。

 

 あるベテランスカウトにきいたのだが、この時期、地方に出る時は宿泊先を家族にも告げないという。

 

「というのも、他球団のスカウトがどの選手に目をつけているかがとても気になるんです。だから、どこに行くかは球団以外、誰にも明かさない。

 以前、女房に宿泊先を教えたところ、他球団のスカウトが新聞記者を装って、僕の家に電話をかけてきた。何も知らない女房はポロッと僕の宿泊先を教えてしまったんです。

 こっちは会社名まで隠してチェックインしているのに、これでパアですよ。仲間であって仲間でないのが僕たちの世界ですよ」

 

 スカウトが最も喜びを感じるのは、ドラフト外(現在、この制度はなし)やドラフトの下位で指名した選手が一軍に上がり、他球団のスカウトを悔しがらせる時だ。

 

「ドラフト1位や2位の選手が活躍するのは当たり前。スカウトの本当の勝負は4位以下。文字どおり眼力が試されることになる」

 

 そういうのは昨年、40年間のスカウト生活にピリオドを打った木庭教氏。弱小チームだった広島カープが6度もリーグを制覇し、3度も日本一に輝いたのは、木庭の功績によるところ大だといわれている。

 

 木庭が発掘した最高傑作といえば連続試合出場の記録保持者で国民栄誉賞にも輝いた衣笠祥雄だろう。

 

 木庭は語った。

「衣笠をとるきっかけは、実はバットの重さにあったんです。ある日、平安高のグラウンドで彼の練習を見ていて、フリーバッティングの時かな、僕の前に彼のバットがコロンと転がってきたんです。それで拾ってやった。

 と、これがズシリと重い。普通、高校生は920グラム程度のバットを使うのに、彼のは優に950グラムはあった。しかも、そのバットをものすごいスピードでビュンビュン振り抜いている。コイツは大したもんやと。あの時の感覚は、今でもズシリと手に残っています」

 

 衣笠の例が示すように、その選手の素質を示すヒントは、グラウンドのそこここに転がっている。スカウトは文字どおり、それらの材料をひとつひとつ拾い集め、丹念に分析するのである。

 

 その意味でスカウトの仕事は犯人を追いつめる刑事の仕事に近いといえるかもしれない。

 

(後編につづく)

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