新型コロナウイルスの感染拡大が最も深刻なのは米国だ。

 

 

 日本時間5月20日午前現在、死者数は9万1800人を超え、感染者数は約150万人。ドナルド・トランプ大統領は「真珠湾攻撃よりも、世界貿易センターよりもひどい。こんな攻撃はこれまでなかった」と興奮気味に語り、怒りの矛先を中国に向けた。「発生源は止められたはずだ」

 

 中国への怒りはわからないでもないが、感染が拡大するまでは「春になればウイルスは消える」と楽観論を展開していたのは、どこの誰だったのか。

 

 驚いたのは、記者会見での“消毒液注射発言”だ。

「(ウイルスを)1分でやっつける消毒液もあるだろう。体内への注射とか、そういう洗浄はできないのか?」

 

 あのねェ、そんなことやったら死んじゃうよ。

 

 トランプは開幕が延び延びになっている米国のナショナル・パスタイム(国民的娯楽)であるメジャーリーグにも言及し、「1日も早い開幕を」と経営者側に発破をかけている。

 

 4月中、1日平均で2000人もの死者が出ているというのに、大丈夫か?

 

 目下、メジャーリーグは7月上旬の開幕を目指している。レギュラーシーズンは従来の162試合から、半分の82試合程度になる見通し。

 

 開幕当初は無観客試合を想定していることから、経営者側からは「総収入を球団と選手で折半する」との案が出ている。これは事実上のサラリーキャップ制の導入だ。減収を余儀なくされる案を選手会側が受け入れるはずがない。

 

 というのも、232日間に及んだ1994年8月から95年4月にかけてのストライキも、経営者側が持ち出したサラリーキャップ導入案が発端だったからだ。

 

 こう書くと選手たちが“カネの亡者”のように思われるかもしれないが、当然のことながらサラリーキャップ制を導入する場合、経営者側も総収入を明らかにしなければならない。分母が不透明では配分比率が決まらないからだ。26年前の労使交渉では、経営者がこの部分を明らかにせず、スト突入を招いてしまった。

 

 この非常時に、カネの取り分を巡って争っていたら、ファンは鼻白むに違いない。26年前のストライキは、深刻なファン離れを引き起こした。

 

 トランプが大統領に就いてからというもの、米国社会は「分断」の様相を、以前にもまして強めている。MLBは傷付いた国民を癒す存在であって欲しい。それでこそナショナル・パスタイムだ。

 

<この原稿は2020年6月19日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

 


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