阪神や北海道日本ハム、東北楽天など、のべ6球団で投手コーチを務めた佐藤義則には持論がある。

 

 

「ピッチャーは傾斜のついたところで投げてナンボ」

 

 マウンドの直径は18フィート(5.4864m)、高さは10インチ(2504センチ)と決められている。勾配についても1フィート(30.48センチ)につき1インチ(2.54センチ)と定められている。

 

 しかし、ピッチャーに聞くと、その多くが「球場によってバラつきがある」というのだ。土の硬軟やマウンドから見る景色にも影響されるのだろう。

 

 交流戦も含めると、プロ野球のピッチャーはホームも含め12の球場で投げなくてはならない。地方球場も含めると、その数は、さらに増える。

 

「ここは投げやすい。ここは投げにくい」

 と言っていたのでは仕事にならない。まさに「傾斜のついたところで投げてナンボ」なのだ。

 

 かつて一場靖弘というドラフト1位で楽天に入った本格派右腕がいた。楽天とヤクルトで通算16勝(33敗)を記録し、2012年に引退した。

 

 楽天時代に指導した佐藤によると「平場ではすごいボールを投げるのに、マウンドに上がると力が発揮できない」というのだ。

 

「傾斜に負けた男」

 

 佐藤は、そう評していた。

 

 近鉄や千葉ロッテでコンディショニングコーチを務めた立花龍二によると、「今季は故障のリスクが高いシーズンになりそう」とのことだ。

 

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、3月20日の開幕が6月19日になってしまったからだ。

 

 元中日監督の谷繁元信は<6月頭から練習試合を再開し、開幕を迎える。真剣勝負の昨季の公式戦から約8カ月も遠ざかっている。例年の5カ月程度のブランクとは違う。本当のパフォーマンスを出せるかは分からない>(日刊スポーツ5月26日付)と述べていた。

 

 故障のリスクが高いのは野手よりもピッチャーである。

 

「足場のきれいなブルペンで投げていても、実戦に耐える体力は身に付かない」と立花は言い、続ける。

 

「ピッチャーは荒れたマウンドで投げることで踏ん張る力がつく。ですからコーチ時代は“きれいなところばかりで投げるなよ”と投手陣にアドバイスしたものです」

 

 実戦不足と8カ月のブランク。車にたとえれば、ギアをいきなりローからトップに持っていくようなものだ。その反動が心配である。

 

<この原稿は2020年7月3日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

 


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