夢を見た。
東京オリンピック・パラリンピックの真っ最中!?
これは辰巳のアクアティクスセンターだろうか……。
美しい肉体をまとったアスリートがプールサイドに並んでいる。
その様子は各スタート台に仕込まれた8Kカメラからの詳細な映像が送られ、まるで間近で見ているような迫力があった。いや、こんな距離では審判でさえ見ることができないから特等席かもしれない。
電子音と共に選手が反応し、水の中へ消えていく。映像は水中映像に切り替わり、真下から選手をとらえている。さらにスタート台下にあるタッチ板に仕込まれたカメラから選手の正面からの水中映像、天井からの映像、プールサイドからの映像があり、視聴している方が好きなように切り替えられる。コースロープに仕掛けられたカメラからの映像はまるで横で泳いでいるようだ。
ふと観客席を見上げると人は僅か。選手団の関係者と報道関係者だろうか。メインプレスセンターが縮小されたので、空いている競技場の観客席がその機能を補っている。スペースの有効活用といったところだ。場内の光がプールに集中し、まるでショーを見ているような光景だ。
アクアティクスセンターを出ると、街は普段とさして変わらない。公園では子供たちが遊んでいるし、車も普通に走っている。施設に立っている五輪旗がなければ、中で大会をやっている実感もわかない。
僕は臨海地域を自転車で走っていく。やはり東京の夏は暑くなったようで、信号待ちで止まった瞬間に汗が噴き出してきた。そういえば昨年は観客の暑さ対策が議論されていたが、そんなことはほとんどの人が忘れてしまっているかのようだ。いつもと変わらない豊洲市場を抜けて晴海へ。この辺りを最近走り出したBRTという連結したバスが追い抜いていく。
左手には新しい晴海の街が見えてきた。本当は選手村に使われるはずだったが、結局そのままマンションとして使わることになり、まさに入居に向けて最後の仕上げが行われている。各国選手団は都内のホテルに分散宿泊している。五輪需要を見込んで続々とオープンしたホテルたちは、無観客が発表された時はどうなることかと思ったが、選手団の受け入れが決まり、関係者は胸をなでおろしただろう。
新しいオリパラのかたち
競技関係者や報道関係者以外は海外からの観光客も少なく、街はいつもと変わらず動いている。あれだけ危惧された、公共交通の渋滞や、観客誘導などの問題は何だったのか……。
スポーツバーで休憩しようと入ったら、大勢の人が大型ビジョンでの大会観戦で盛り上がっていた。会場で見ることはかなわないが、こうやって好きなスタイルで仲間と観戦できるのも悪くない。これも技術の進化があってこそ。チケット代がビール代に変わったという人は少なくない。僕も自転車で来たのに我慢できず、冷たいビールをガブガブ飲んだ。
そこで目が覚めた。
街への負荷を極力減らした「新しいオリンピック・パラリンピック」というのはこういうことなのかもしれない。と、ビールを飲み切れなかった悔しさを思い出しながら、ベッドの中で夢を振り返った。
コロナ禍以降、状況は変わった。
もう、既存のような大会を望んでいるのは少数派だろう。そんなお金も時間もなければ、コロナ以前に想定していた運営をこの感染状況で行えるのかも見えない。これはIOCも認めるところ。ならば、いままでとは違う新しいオリパラを開催すればいいのではないか?
ここまで、IOCは決まったスタイルを崩すことは許さなかった。
でも、そのスタイルだってそんなに伝統があるわけではない。
最初のスタートは宗教的行事。近代五輪になりスポーツと平和の祭典になった。そしてお金に行き詰まったことから、逆転の発想で稼げる大会に変化を遂げてきた。歴史的にはいくつかの変革期があるが、それは変えなければ生き残っていけなかったからこそ。そう、ピンチにおいて生き残るために変化を遂げる。これはなにも五輪に限った話ではない。生物だって、経済活動だって同じことだろう。
ウイルスと人種差別問題で世界はきしんでいる。
こんな時こそ、世界をひとつにできるスポーツの祭典の真価が問われる。
過去の概念を思い切って捨て去り、新しいオリパラから新しいメッセージを放つ時ではないだろうか。
白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)。
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