ちょうどこの原稿を書いているさなかに、東京都の新規感染者が280人超と発表された。検査件数が増えているのも事実であり、ただ感染者数だけを報道するのは好ましいとは思えない。だが、感染経路不明者が多いのは心配だし、年齢層の幅も広がってきて、今後のどうなっていくのか、不安な方は多いだろう。そんな中でスポーツが少しずつ動き出している。すべて自粛するという感染拡大初期の対応ではなく、できるようにやり方を模索し、できるような開催をしていくというのは、スポーツはもちろん、すべてに通じることだ。

 

 スポーツは「見るスポーツ」と「参加するスポーツ」の2通りに分けることができる。

「参加するスポーツ」はランニングなどの自らが行い、イベントに参加するものを指す。コロナ禍では施設がなくても1人で行えるランニング人口が増えたと言われている。ただ、大会に関しては密を作り出すということで、まだ再開がほとんどできていないのが実情である。他のスポーツでも、参加型イベントにとっては厳しい時期が続いている。

 

 もう一方の「見るスポーツ」は無観客からそろりそろりと再開し、最近では人数を絞り観客も入れて行っている。これによりニュースの幅も増え、経済も動き出し、プロスポーツというものが、人の活力になることはもちろん、社会活動としても大切なものであるのか良く分かる。その中で新しい発見のひとつは、無観客試合のとらえ方の変化ではないか。

 

 当初「無観客試合」というのは、非常にネガティブで残念な響きで使われていた。確かに、これまではホームチームへのペナルティーの一環で、チームの収入を奪うものとして歓迎されないものであった。しかし今回、試合を開催する手段として無観客が選ばれると、最初こそは違和感もあったが、少しずつ楽しめるようになってきたから不思議である。

 

 無観客で感じた音の魅力

 

 ボールを受ける音、バットから発せられる音、選手が思わず発する声など、“野球ってこんな音がするのだ”とあらためて発見できた。そして、そのミットの音に、選手たちの凄さをあらためて感じる。サッカーにしてもボールの音、選手の声、時には選手同士がぶつかる音まで聞こえてきた。まるでサッカーというスポーツの鼓動が聞こえてくるようだった。

 

 逆に言うと、今までは歓声や様々な観戦グッズでこれらの音はかき消されていたということになる。これはある意味、スポーツの魅力のひとつを失っていることにならないだろうか。選手のぶつかり合うあの音をしっかりと聞く、球場に響き渡るバットの快音を聞くことは見るだけではない、「聞くスポーツ」として味わい深いものだとあらためて気づかされた。

 

 もちろん、ひいきの選手やチームを心の限り応援するというのもスポーツの魅力だし、皆で一緒に応援することで得られる高揚感、一体感も素晴らしい。ついついビールを飲み過ぎるというものだ。でも、今回発見した「聞くスポーツ」をもっと楽しめる仕掛けはつくれないものか。ゴルフなどでは選手がプレイに入る瞬間は静粛にするという応援マナーがある。それをサッカーで導入することはできないが、グラウンドのあちこちにマイクを仕込むとか、審判に付けられたマイクで周りの音を拾えるようにするなど、もっと検討されてもいいように思う。

 

 来年は予定通りにいけばオリンピック・パラリンピックが開催される。ぜひ放送業界、スポーツ業界でアイディアを練って、「見るスポーツ」だけでなく「聞くスポーツ」の魅力を発信してもらいたいと願うのは、かなりニッチなリクエストだろうか。

 ぜひ、想像してもらいたい。目を閉じても楽しめるスポーツ観戦を……!?

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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