プロ野球なんか開幕しなきゃよかったんだ……と毒づきまくっていた週末は過去のものとなり、虎さんチームも今年の1勝目をあげた。めでたしめでたし。

 

 無観客試合。リモートマッチ。野球に関していうと、静まり返った球場での試合に慣れてきた自分がいる。少なくとも、負けたときの悔しさ、勝ったときの喜びには何の違いもない。飢えて飢えて飢えまくっていた野球欲、野球腹、いまのところ、それなりに満たされている。

 

 半面、期待していたほどに収まってくれないのがサッカー欲、サッカー腹の飢えである。

 

 ブンデスリーガに続きセリエA、リーガエスパニョーラも再開された。世界のスターたちが戦う世界最高峰の舞台をテレビで見られる日常が帰ってきた。普段であればハイライトでしか見ないチームの試合まで、ついフルタイムで見てしまっている。

 

 なのに、当たりがない。

 

 欧州CLであれば1節につき何試合か、各国リーグであっても1節につき1試合以上は確実に、観戦後にお腹いっぱいな気分になれる試合に巡り逢える――それがコロナ以前のサッカーだった。というか、かなり低確率な、しかし絶無ではない好試合、名勝負との邂逅を求めて、眠い目をこすりながら観戦するサッカーファンは少なくないはずだ。

 

 ところが、ブンデスを見ようがリーガを見ようが、メッシを見ようがクリロナを見ようが、びっくりするほど気持ちが昂ってこない。改めて、サッカーは観客がいてこそのスポーツなのだと痛感させられている。

 

 振り返ってみれば、W杯やユーロ、欧州CLで数多演じられてきた名勝負のほぼすべては、超満員の観客のもとで行われていた。ガラガラのスタンドが映る名勝負の記憶がわたしにはほとんどないし、考えてみれば、陸上トラックが併設されたスタジアムでの名勝負もびっくりするほど少ない。手に汗握る無観客試合、歴史に残るリモートゲームに出合える確率は、それこそ、ジャンボ宝くじの1等に当たるより難しいのかもしれない。

 

 ただ、コロナの収束が見込めない以上、不満はあろうともサッカーもしばらくはこのスタイルでやっていくしかない。

 

 先週は、ドイツ屈指の名門カイザースラウテルンが破産したという悲しいニュースがあった。

 

 カイザースのホームは、06年W杯ドイツ大会で日本が初戦でオーストラリアと戦ったフリッツ・ヴァルター・シュタディオン。逆転負けの苦い記憶とともに、スタジアム自体の素晴らしさも強く印象に残っている。あれほど立派な器を持ったチームですら破産する。それも常に堅実経営を求められてきたブンデスリーガのチームが破産する。国自体の経済力やリーグの規模、ポテンシャルなどを勘案すると、今後、欧州全土、いや、世界各地で同じ道を辿るクラブが続出する可能性は、決して小さなものではない。

 

 開幕や再開のニュースは、何やらトンネルを抜けたような高揚感をもたらしてくれる。けれども、大切なものではあっても不要不急とされがちなスポーツの今後は、依然、不透明なままである。阪神の初勝利に浮かれている場合では……ないわな。

 

<この原稿は20年6月25日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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