A代表とU-23代表を率いる森保一監督の「兼任」が難しくなってきた。

 

 コロナ禍によって東京オリンピックが来年に延期となり(7月23日開幕)、A代表も今年3月からカタールワールドカップアジア地区2次予選が中断している。FIFA(国際サッカー連盟)は9月に予定していた国際Aマッチデーを来年6月に延期することを決定。これを受けて最終予選の日程が来年6月に組み込まれる見通しとなった。ただ世界の感染状況によっては再変更となる可能性もあると言っていい。

 

 東京五輪が今夏開催されていれば9月からA代表の最終予選が始まるため、タイミングとしてはベストだった。五輪で活躍した選手たちがA代表のメンバーに名を連ねてくるはず。チームは本格的な「融合」に入っていき、2022年のカタール本大会を目指すという方針であった。

 

 しかし東京五輪が来年になってしまうと話は別になる。その時期は既に最終予選の真っ只中。東京五輪直前の活動とかぶってしまう。兼任は難しいと言わざるを得ず、日本協会でも指導体制について協議することとなった。森保監督は協会の決定に従う意向を示しているという。そうなるとA代表優先の観点に立てば東京五輪監督から離れる公算が大きい。

 

 新監督は森保監督の右腕である横内昭展コーチの昇格が有力と見ていい。これまでも森保監督がA代表の活動で不在の際は、指揮を執ってきた。昨年10月のブラジル遠征ではU-22ブラジル代表との親善試合を3-2で制すなど、結果も残している。森保イズムを浸透させ、選手と築き上げてきた信頼関係もある。懸念だった年齢制限もU-24代表として臨めることになり、現チームが基本となるなら「横内監督」に異論はない。

 

 ただ監督の立場となると、所属クラブ、協会など周囲と頻繁にコミュニケーションを取って、協力を求めたり、情報を集めたりしなければならない。強化の方針も決めていかなければならない。

 

 横内コーチは代行監督の経験などはあるものの、監督となれば実質的には初めてと言っていい。引き続きA代表コーチを務めるだろうし、森保監督との強い関係性を考えても引き続き“タッグ”を組むのが望ましい。つまり森保監督を「総監督」に置き、現場以外のマネジメントを含めてフォローに回ってもらう形がいいのではないだろうか。

 

 年齢は森保監督のほうがひとつ下だが、JFLのマツダ時代から30年以上にわたって選手、指導者として、辛苦をともにしてきた間柄でもある。

 

 そして森保監督を「総監督」に置く意味はもうひとつある。

 

 五輪は言うまでもなく、平和の祭典。東京から五輪精神を発信するという点でも、彼の存在は大切だ。

 

 森保監督は高校まで長崎で過ごし、マツダ、そしてサンフレッチェと広島でプレーし、日本代表の中核を担う名ボランチに成長する。広島は「第2の故郷」となった。原爆を投下された2つの都市を故郷とする彼は、平和に対する思いが人一倍強い。

 

 2017年10月、東京五輪代表の監督に就任した際、会見ではこのように述べている。

「私は長崎出身で、広島で人生を一番長く過ごしてきました。その2つの都市は世界で2カ所しかない被爆地です。そういった今までの人生のなかから、平和都市で過ごしてきた部分を発信できれば幸いです」

 

 昨年にはU-22代表監督として広島、長崎で親善試合を行った。その際、チームで広島の平和記念公園、長崎の長崎原爆死没者追悼平和祈念館を訪れて献花している。総監督の立場から平和に対する発信を続けることもできる。「森保総監督、横内監督」体制が望ましいと筆者は考える。


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