FC東京に頼もしい男が帰ってきた。

 “韋駄天”永井謙佑、31歳。

 

 昨年12月に脱臼を繰り返していた右肩を手術した影響で長期離脱を強いられていたが、7月12日の第4節、アウェーでの横浜F・マリノス戦で待望の復帰。“相棒”ディエゴ・オリヴェイラとの2トップで先発し、そのスピードとタフネスで王者にストレスを与え続けた。

 後半開始早々のアシストシーンは見事の一言に尽きる。

 

 GK林彰洋のロングフィードに対し、彼は競り合う相手の前に体を入れて右足アウトで引っ掛けるようにしてボールを前に出した。そのままダッシュして追いつき、右サイドから巻くようなボールでファーに走り込むレアンドロにクロスを送る。

“気持ち良く決めてくれ”と言わんばかりの丁寧なクロス。受け取ったレアンドロはハーフボレーで叩き込んだ。

 

 前半にも、永井らしいプレーがあった。

 

 自陣で右サイドの室屋成にパスを出すと、そこからダッシュして前線に向かう。最終ラインの注意を自分に呼び込むことでオリヴェイラに対するマークが遅れ、そこに室屋がロングパスを送る。相手はファウルで止めざるを得ず、そこでもらった直接FKをレアンドロが決めた。これも言ってみれば陰のアシスト。横浜相手にここで2点を奪えたことが非常に大きかった。

 

 永井の働きはこればかりではない。

 

 裏を狙い続けることで相手に対して常に脅威を与え、守備になれば前線から全力で追っていくスイッチ役を果たす。後半14分に交代を告げられるまで、一切手を抜くことはなかった。勝利を“アシスト”する見事な働きっぷりであった。

 

 チームのために働く――。

 

 これは永井が常に意識していることだ。昨年インタビューした際に彼はこう語っている。

 

 移籍初年度の2017年シーズンのことだ。チームはリーグ13位に終わり、永井もわずか1ゴールに終わった。

 

「俺はチームのためと言っているけど、本当にできているのかと見つめ直しました。チームのために、が足りないんじゃないか、と。まずは自分の仕事をする。自分のプレーに目を向ける。そこを一生懸命やって、チームの結果に結びつけることができたら一番いい。結果が出なかったら、自分を修正すればいい。ベクトルをチームに向けるんじゃなくて、自分に向ける。ひいてはそれがチームのためになるっていう考え方です」

 

 チームのために、とはどういうことか。

 ここを自分のなかできちんと整理できたことが大きかった。

 

 FC東京は加入したレアンドロ、アダイウトンとオリヴェイラのブラジル前線トリオが注目を集めていたが、永井はやはり外せないと強く感じる。攻守にわたる陰の貢献があって、周りが活きる。前節、川崎フロンターレとの“多摩川クラシコ”で大敗した嫌なムードも払しょくできた。やはり前線は永井とオリヴェイラの最強2トップが落ち着く。

 

 ただ、残念ながらF・マリノス戦の永井はシュートゼロに終わった。本人もこの点は悔しかったに違いない。

 

 チームのため、を続けていけば自ずとシュートチャンスも舞い込んでくる。

 

 元日本代表フォワードの長谷川健太監督からはいつもこう要求されているという。

「監督からは“仕掛けろ”と言われます。そしてフォワードなんだから、外してもいいからとにかくシュートを打て、と。試合のなかで1回決めればいいんだ、と」

 

 昨シーズンは9ゴールにとどまり、4年ぶりとなる2ケタ台に乗せることはできなかった。今シーズンこそという思いは強い。

 

 復帰即活躍の韋駄天ストライカー。

 アシストよりもやはりゴールがよく似合う。


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