欧州挑戦のビフォーアフター。

 

 ベルギー2部ロケレンの破産宣告によって1シーズン限りで横浜F・マリノスに復帰した天野純は明らかにプレースタイルが変わった。

 

 グイグイと前に行き、シュートを狙う。

 復帰第2戦目となった7月8日のホーム、湘南ベルマーレ戦。0-1で迎えた後半18分に投入された天野は技ありのループシュートを決め、同点に追いつく。

 

 圧巻だったのは次の2点目だ。

 後半32分、オナイウ阿道がスローインのボールを受け、左サイドから中のスペースに出ていく天野が呼び込む。さらに味方とのパス交換でペナルティーエリア内に入っていき、相手を2人かわして左足で押し込んだ。

 

 前へ、前へ。

 これまでの天野のイメージにはなかったゴールだと言っていい。

「ベルギーに行くまでは周りを見て、前と後ろに対する意識が6対4くらいだったんですけど、今ではもう8対2くらい。常に前を見るようになったし、自分でも前に運んでいけるし、前の選択肢が凄く増えました。ただ(何を得たのか)言うよりも、プレーで見せていくしかない。活躍していくしかない」

 

 これはF・マリノスに復帰直後にインタビューした際の言葉。まさに「常に前を見る」意識によって生まれたものだった。

 

 昨夏、慣れ親しんだ横浜を離れ、目標だった欧州の地へと渡った。

 28歳、遅すぎる海外挑戦とも言われた。だがベルギー2部からのし上がっていくために持てる力をすべて振り絞ろうとした。

 

 サイドハーフで定位置をつかみながらも、ロングボール主体のスタイルになかなかなフィットしていけない。結果もなかなかついてこないことで「最初の数カ月は完全にメンタル修行でした」と彼は言う。

 

 バックパスなど後ろの選択肢を減らして、パスは前へ、自分も前へ。

 チームのやり方に、どう自分が合わせていくか。11月下旬に監督が代わり、ボランチ、トップ下に配置転換されたことも後押しとなって、ようやく歯車がかみ合い始めていた。

 

 そんなときにコロナ禍によってリーグが中断、打ち切りとなる。クラブは裁判所から破産宣告を受けてライセンスを取り消されてしまう。先行きの見通しが立たない状況では欧州内移籍も難しく、挑戦を断念するほかなかった。

 

 決意が大きかった分、失意も大きかった。

 ただ下を向いている暇はなかった。復帰を受け入れてくれたF・マリノスのためにもという思いは強い。

 

 彼はこう語っていた。

「引き続き欧州でプレーすることしか考えていませんでした。代理人には欧州とコンタクトを取ってもらっていましたけど、コロナの影響もあって身通しが立たない。この自分の難しい状況を理解してくれたうえで迎え入れてくれたF・マリノスには感謝という言葉以外ありません」

 

 後ろを振り返ることなく、前を見据える。

 7月26日のアウェー、北海道コンサドーレ札幌戦でも先制のミドルシュートを決めている。積極的なプレーが結果に結びついている。

 

 不完全燃焼に終わった欧州挑戦の悔しさを胸に、アマジュンの新章が始まる。


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