まさか、こんな日が来ようとは。

 

 ヌマンシア、デポルティボ・ラコルーニャ、エストレマドゥラ、ラシン・サンタンデール。先週末、リーガエスパニョーラで2部B(3部相当)に降格が決まった4チームは、いずれも、かつては1部で戦ったチームだった。中でも、柴崎の所属するデポルティボは、かつて欧州CLでユベントスやミランなどと死闘を演じ、“スーペルデポル”と呼ばれた欧州屈指の強豪だった。前世紀の話ではない。十数年前のことである。

 

 時代は変わる。

 

 デポルが欧州で暴れ回った時代は、スペインのサッカーがイタリアやドイツ、イングランドに比べると1段落ちると見られていた時代だった。スペインに来るスターはいても、外国に渡るスペイン人のスターはほぼ皆無。W杯では特長も勝負強さもなく、リーガ全体のGKの質の低さ、層の薄さは日本人から見ても気の毒になるほどだった。

 

 もっとも、当時の日本サッカーは、世界で勝てないスペインをも、雲のはるか上に仰ぎ見ているような存在だった。デポルがリーガを制覇した00年、日本人にはまだW杯での勝利体験がなく(というか、1回出場しただけ)、Jリーグにはまだ27のクラブしかなかった。

 

 すでに中田英寿はイタリアに渡り、国内では磐田が傑出したサッカーを見せていたが、たった27しかないJクラブ内の力量差は、ひょっとすると3部まで含めたリーガより大きかったかもしれない。何しろ、J2最下位に終わった甲府の成績は5勝3分け32敗である。

 

 あの頃の日本サッカーは、まだ27チーム全てにプロフェッショナル・レベルの選手を供給できるまでには至っていなかった。

 

 だが、あの頃世界の日常、日本の非常識だった「2部で頭角を現し、1部、さらには国外へ」という流れは、いまや確固たるものになった。リーグの規模は年々拡大したが、いまやJ3を見ても「おっ」と思わせる選手がいる。

 

 スペインでは1部と2部の間に相当大きなサッカーの質、方向性の違いがある。乱暴にくくってしまえば技術、戦術の1部に対し、闘志、体力の2部といった感じなのだが、最近は違いが出てきた印象がある。

 

 中でも顕著なのは、ストライカーに対する考え方だろうか。最近のJ2では、J1以上に前線で張る選手のサイズが重要な要素になってきている。長年、“小粒でピリリと辛い”系のストライカーを偏愛してきた日本サッカーの傾向を考えると、これはちょっと興味深い。

 

 いまのところ、ポストの役割は外国人に任されていることが多いが、千葉では1メートル90の体格に恵まれた18歳、桜川ソロモンという楽しみな選手が出てきた。サッカーはサイズに関係なくできるプレーできる競技であるが、サイズがある選手にしかできないプレーも多々ある。スペインしかり、メキシコしかり。平均身長が高くない国ほど、大きな選手を大切に育てる。日本も、ようやくそうなりつつあるということか。

 

 時代は変わる。未来は誰にもわからない。本来であれば、明日は五輪の開幕で日本中が大変な騒ぎになっているはずだった。

 

 まさか、こんな20年7月24日になろうとは。

 

<この原稿は20年7月23日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから