Jリーグ草創期、最もスペクタクルなサッカーを展開したのはヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ1969)である。“ミスター・ヴェルディ”と呼ばれた司令塔ラモス瑠偉が組み立てる攻撃は、パスサッカーの魅力に満ちていた。

 

 

 かつて、ラモスは語った。

「ヴェルディのサッカーはやる方も楽しいし、観る方も楽しい。ボールを細かくつないでいくから、お客さんも目が離せないんじゃないかな。サイドからポーンとボールを蹴って、誰かが頭で飛び込んでいく。そんなサッカー、おもしろい? 選手ひとりひとりに遊び心がないと、おもしろいサッカーはできないよね」

 

 Jリーグを2度、リーグカップを3度、天皇杯を2度も制したヴェルディ(読売クラブ時代は除く)も09年以降、ずっとJ2だ。

 

 昨季途中から指揮を執るOB永井秀樹のモットーは「ヴェルディらしいサッカー」の復活。

 

 結果こそ出ていないものの「ヴェルディらしさ」は随所に出ている。第4節を終え、2分け2敗。実にボール支配率は68.3%(サッカーデータサイトFootball LAB)。

 

 たとえば第3節、アウェーでの栃木SC戦。後半3分にDF高橋祥平が退場したことが響き、1対1の引き分けに終わったが、ボール支配率は71.5%。パス数は栃木が273本に対し、ヴェルディは748本。ひとり少ないハンデを全く感じさせなかった。

 

 もっともラモスに言わせると「どんないいサッカーをしても、点をとらないとダメよ」と手厳しい。

 

「永井は強かった頃のバルセロナのようなサッカーがやりたいんじゃないかな。確かに、はまるとおもしろいサッカーだと思う。しかし、大事なところで点がとれないね。敗れた大宮戦はボールを持つというより持たされていたね。点をとる人がいないと、相手からすると“持たせても大丈夫”となってしまう。

 

 昔のヴェルディはサッカーもおもしろかったけど、点を取れる選手が揃っていた。カズ(三浦知良)、武田修宏、北澤豪、ビスマルク……。今はフィニッシュの部分が課題だね」

 

 現役時代の永井はドリブルがうまく、足元のテクニックにも光るものがあった。のべ12のクラブでプレーし、45歳で引退した。

 

 現役時代、クリエイティブなプレーを模索し続けた永井だけあって、監督になってからの言葉使いにもセンスが感じられる。

 

 昔でいうセンターフォワードは「フリーマン」。サイドハーフは「ワイドストライカー」だ。

 

 そうした独特の言葉使いの裏には、従来の約束事に縛られず、自由な発想でプレーしようとのメッセージが込められている。

 

 資金面の問題もあり、名門再建は、そう簡単ではない。今季は新型コロナウイルス感染拡大により、敵地での連戦を余儀なくされるクラブが出てくる。「公平性が保てない」としてJリーグは「降格なし」を決めた。

 

 しかし、逆に考えれば志向するサッカーに取り組めるチャンスではないか。永井には腰を据えて再建に取り組んでもらいたい。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2020年8月2日号に掲載されたものです>

 


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