(写真:バンタム級王座戴冠が決まり、観客にアピールする朝倉海 ⓒRIZIN FF)

 8月9日、10日の2日間に渡り、横浜みなとみらい・ぴあアリーナMMで開催された格闘技イベント『RIZIN』は大いに盛り上がった。

 

 新設された会場、ぴあアリーナMMの収容人数は約1万人。新型コロナウイルス感染拡大の影響で入場者数は、その半数以下に抑えられたが、それでも場内にはワクワク感が漂った。ファンはRIZINの再開を待ちに待っていたのだ。

 

 もっとも注目を集めた試合は、10日『RIZIN.23』のメインイベント、朝倉海(トライフォース赤坂)vs.扇久保博正(パラエストラ松戸)。

 結果は、朝倉の1ラウンド(4分31秒)TKO勝ち。一方的な試合となったものの、リング上にはピリピリとした緊張感があった。

 

 リングインの際、両者の表情は、とても精悍だった。

 特に扇久保の顔つきが。

(もしや……)

 そんな期待感も抱かせてくれたが、大方の予想通り、朝倉の実力が一枚上だったようだ。

 

 テイクダウンを許さず、扇久保の動きを研究し尽くした上で、アッパーカット、ヒザ蹴りを的確にヒットさせ、その直後に猛ラッシュ。圧勝でRIZINバンタム級のチャンピオンベルトを腰に巻いた。

 

 試合直後にリングで朝倉は、こう叫んだ。

「僕と堀口さんの試合を実現させてください!」

 

 1年前の夏、ドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)で開かれた『RIZIN.20』で朝倉は、堀口恭司(アメリカン・トップチーム)にKO勝利を収めた。これは予想外の決着、大番狂わせだった。

 そして、昨年の大晦日に今度は、RIZINバンタム級王座を賭けて再戦することが決まるも、堀口が右ヒザ十字靭帯断裂に見舞われる。そのため試合は流れた。

 

 堀口は昨年の11月に手術に踏み切る。その後、順調に回復しており、おそらくは大晦日にはリングに上がれるだろう。

 

「世界の扉」を開くための大勝負

 

 朝倉が新チャンピオンになった後に堀口は、こうツイートしている。

<おめでとう海君! 待っててね!>(本人Twitter 2020年8月10日)

 

 これは、「大晦日にやろう」というアンサーではないか。

 今年の大晦日、チャンピオンとチャレンジャーの立場を換えて、両雄の再戦が実現する可能性は極めて高い。

 

 この再戦における2人のテーマは何か?

 

(写真:元世界王者・内山高志にボクシング技術を習っている ⓒRIZIN FF)

 堀口にとっては「復権」だろう。

 再び『RIZIN』の主役の座を取り戻すのだ。

 

 では、朝倉にとっては?

 それは「世界の扉」を開くこと。

 

 扇久保戦の後に、朝倉はこうも話していた。

「もっと実力をつけて世界の強豪と互角に渡り合えるようになりたい」

 つまりは、世界の強豪が集う舞台、UFCへの進出を視野に入れているのだ。

 

 今年4月、マネル・ケイプ(アンゴラ)はUFCから声を掛けられて契約をした。それはRIZINバンタム級チャンピオンになったことを評価されたからである。

 もし、昨年の大晦日のタイトルマッチでケイプに勝っていたら、声を掛けられていたのは朝倉だったはずだ。

 

 一度逃した世界進出のチャンス。

 だが、もう一度めぐってきた。

 

 UFCでのキャリアも十分の堀口に連勝したなら、好条件での契約話が舞い込むことだろう。

 朝倉にとって堀口との再戦は「RIZINバンタム級最強」を証明するだけの闘いではない。「世界の扉」を開くための大勝負なのである。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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