(写真:昨年11月にWBSSバンタム級トーナメント制覇して以来の試合となる井上)

 日々、新型コロナウイルス感染者数が発表されており、東京では、その数が3桁に及び続けている。

 少し前なら、大騒ぎになっていたことだろう。

 しかし、いまやそうではない。誰も驚かない、慣れてしまったのだ。

 新型コロナウイルスと上手に付き合いながらの日常を過ごす、それが「新生活様式」なのだと皆が理解せざるを得なくなっている。

 

 国内外を問わず格闘技イベントも、無観客、または観客数の制限こそ求められているものの再開されている。

 そんな中で、プロボクシングWBAスーパー&IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)の次なる闘いが決まった。

 

 10月31日(現地時間)、米国ラスベガスMGMグランドにおいて、WBOのトップランカー、ジェイソン・モロニー(オーストラリア)と対峙することになったのだ。昨年11月のノニト・ドネア(フィリピン)戦以来、約1年ぶりのリングインとなる。

 

 当初、井上は今年4月にWBO世界バンタム級王者ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)と3団体王座統一戦を行う予定だった。だが、コロナ禍で試合が流れる。

 

 仕切り直し。

 相手は、カシメロに比すれば格下となった。

 井上は昨年5月、英国グラスゴーで、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2ラウンドKOで破った。そのロドリゲスにモロニーは、2018年10月に判定で負けているのだ。

 

 スポーツブックにおいては、大差で井上がフェイバリットとなることだろう。

 初のラスベガス進出――。

 無観客での試合となるものの井上にとっては極めて重要な試合となる。

 王座を防衛するのはもちろんのこと、テーマを「いかにインパクトのある勝ち方をするか」に置いているようだ。

 

 過去とは異なる条件

 

(写真:8割を超えるKO率を誇る。ラスベガスでも“モンスター”ぶりを発揮するのか)

 井上は次のように話している。

「(モロニーに対して)気をつけなくてはいけないという思いはありません。カシメロは一発で倒すパンチがあるので、怖さはありますが、モロニーには、それを感じません。

 ただ技術は高く、またタフで12ラウンドを闘い抜くスタミナも備えている。

 面倒くさいタイプですね(笑)。

 勝ちに徹して、判定勝利を収めるのは難しくないですけど、初めてラスベガスでやるのに、それじゃ駄目ですよね。KOしなければ意味がない。倒し切ります」

 

 モロニーに勝つのは難しいことではない、と井上は考えている。それでも油断はしていない。

「ディフェンスがとても上手い選手ですから、モロニーの試合映像を観てパンチを出す時のクセやパンチの戻し方などを含めてチェックしています。

 そうしたことは、普段はリングに上がってから考えるのですが、今回は前もってやっています。倒し切るために、これまでで一番相手のことを研究しています」

 

 体調は良好のようで、井上に死角は見当たらない。不安があるとすれば、ラスベガス到着後の2週間の隔離、そして無観客などのこれまでとは異なった条件がメンタルにどう影響するかといったことくらいか。

 

 日本ではWOWOWが生中継を決定。もちろん全米でも放映される。

 モンスターが本格的に世界へ翔る刻が近づいてきた。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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