投手から転向して、今やチームに欠かせない主力打者だ。
 東京ヤクルトの雄平は、昨季、打率.316、23本塁打、90打点の好成績を残し、野手5年目にしてトップ選手の仲間入りを果たした。今季は開幕前の欧州代表戦で侍ジャパンに選出され、開幕4番も経験。オールスターゲームにも選手間投票で2年連続出場した。史上空前の混戦を勝ち抜き、ヤクルトが14年ぶりの優勝を目指す上で、彼の打力は必要不可欠だ。30代に入って充実の時を迎えつつある背番号41に、二宮清純が話を訊いた。
(写真:現在は主に5番。「4番は意識していないつもりだったが、ドンとのしかかってくるものが違った」と語る)
二宮: 昨季、野手として大ブレイクしました。どこに要因があったと自己分析していますか。
雄平: これまでの積み重ねだと思っています。2軍時代から監督、コーチにアドバイスを受けながら少しずつ上達していって、昨季も1軍で常にいろんな方から話を聞いて、そのおかげでなんとか1年間できたかなととらえています。

二宮: 元ピッチャーで肩はいいし、打力や走力にも昔から定評がありました。野手ならポジションが獲れるという思いは最初からあったのでしょうか。
雄平: いや、それは思ってなかったですね。とにかく、何でもいいから他人より秀でるものをつくれば1軍で生き残れると考えていました。走攻守全部を揃える相当、時間がかかりますし、そんな簡単にはできない。今もたいしてすごくないですけど、何とか使ってもらっている感じです。

二宮: 昨季まで監督を務めた小川淳司さんからは、どんなアドバイスを? 
雄平: 小川さんも真中(満監督)さんも、僕の性格をすごく理解してくれていて、悩んでいる時に「もっと思いっきりやれ。結果を気にするな」と声をかけていただきます。選手って、監督から言われるとホッとして、思い切りできる部分もあるんです。そういう言葉をタイミングよくいただいて、うまく吹っ切れたこともありましたね。

二宮: バッティングでは、まず反対方向に打つことを心がけているそうですね。これは誰のアドバイスだったのでしょう?
雄平: ファームの時から逆方向に打つことをずっと意識してきました。というのも、野手に転向してみて技術がやっぱり足りない。そのなかで生きていくには、困ったら逆方向に転がして足を生かすことを根本的に考える必要があったんです。それができるようになってから、次にインコースをいかに打つかという段階に入りました。

二宮: 理想としている左バッターは?
雄平: いっぱいいますけど、阿部(慎之助、巨人)さんのバッティングは憧れますね。どの球でも、うまくさばけるところがすごい。どっしり構えて簡単に崩されない。なかなか、あんな風にはできないですけどね。

二宮: それにしても、1軍で1年間フルに出たのが初めてのシーズンで、いきなり打率3割以上は素晴らしい成績です。
雄平: どうなんですかね。まだ1年しかやってないので、良かったという思いと、もうちょっとできたんじゃないかと感じる部分があります。とにかく1年間、ケガなく、フルに試合に出してもらったことが大きかったです。

二宮: 1軍で行けそうだと手応えをつかんだ打席はありますか。
雄平: 手応えは今も正直ないんです。いっぱいいっぱいの状況でやってるので。ただ、引っ張れるようになったとは感じています。昨季でいえば大瀬良(大地)投手のインコースのカットボールを詰まりながらもライトへホームランにした打席(5月8日、神宮)が印象に残っています。

二宮: 真中監督は2軍時代から指導を受けています。どんなことを指導されたのでしょうか。
雄平: 当たり前のことですが、「ストライクを打て」。「オマエはボール球を振っちゃうから、狙いをできるだけ小さくして、自分のスイングをしてから走れ」とよく言われます。調子が悪いと結果が欲しくて、どんどん当て逃げし始めてしまう。「ストライクゾーンを打てば、ヒットは絶対打てる」と、まずはしっかり振ることを徹底されています。

二宮: 杉村繁打撃コーチからは?
雄平: 杉村コーチとはティーバッティングをよくやっていますね。これをすることで試合で相手ピッチャーから崩されたフォームを1回リセットして、自分の型を取り戻せる。そして、いろいろな球に対応できることを目指して取り組んでいます。

二宮: サラリーマンでも仕事がうまくいかず、次の職場で一花咲かせようと考えている人は多いはずです。ピッチャーで苦労して、バッターで成功したという雄平さんのストーリーは勇気を与えるのではないでしょうか。
雄平: どうでしょうか。ただ、僕にとって、ひとつありがたかったのは、仕事が変わっても環境は変わらなかったことです。周りの選手や監督、コーチは今までと同じだったので、すごく救われた部分がありますね。球団も本当に我慢強く待ってくれましたから、そういう期待に何とか応えたいとの思いは強いです。

二宮: チームは優勝争いを演じています。ここまで来たら優勝を味わってみたいでしょう。
雄平: はい。優勝したら辞めてもいいくらいの気持ちです(笑)。もちろん辞めないですけど、優勝は大きな夢。高校でも全国優勝を味わえなかったので、野球をやっているうちに優勝したい。どんな達成感があるのか楽しみです。主力として優勝に貢献できれば最高ですね。

<現在発売中の講談社『週刊現代』(8月8日号)では雄平選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらも併せてお楽しみください>