日本プロ野球名球会の歩みは複雑である。1978年7月に任意団体「昭和名球会」として発足し、81年9月に「株式会社」に改組した。「一般社団法人」へと装いを改めたのは2010年10月。だが、その後も株式会社は存続し、11年2月に解散した。

 

 非営利法人ゆえ、余剰利益を分配できないという縛りはあるものの、監督官庁が存在しないため行政から監督、指導を受けることはない。優遇税制と引きかえに何かと制約の多い「公益社団法人」と比べた場合、活動面での機動性は十全に確保されていると言えよう。

 

 このように比較的容易に設立できる「一般社団法人」においても、定款には法人設立の明確なる「目的」の記述が義務付けられている。名球会のそれは<社会の恵まれない方々への還元と日本プロ野球界の裾野の拡大>と実に崇高である。

 

 この文言の後半部分に注目してみたい。<日本プロ野球界の裾野の拡大>。プロ野球界の裾野とは、2軍や3軍、あるいは出番の少ない選手を指すのか。それともプロ野球界を支える下部構造、すなわちプロはプロでも独立リーグやアマチュア野球、あるいは少年野球までをも視野に入れているのか。文面上はどちらともとれる。

 

 いずれにしても<裾野の拡大>を目的とするのなら、現在の三つの入会資格条件<通算200勝以上><通算250セーブ以上><通算2000本安打以上>には加筆が必要だろう。

 

 たとえば先頃、前人未到の通算350ホールドに到達した北海道日本ハムの宮西尚生。資格条件にホールドの項目がないため、仮に記録を500に伸ばしたところで、名球会のブレザーに袖を通すことはできない。日米通算134勝128セーブ104ホールド、いわゆる“トリプルハンドレッド”の上原浩治が非会員なのも、彼の入会意思は別として個人的には違和感を覚える。仮に通算“199勝249セーブ”の投手が現れても門前払いだ。

 

 今季限りでの引退を表明した阪神・藤川球児の日米通算セーブ数は245。入会するには、あと5つ足りない。しかしホールドは164もある。勝ち星も61。現行のルールでは、これらが“合わせ技”としてポイント化されることはない。

 

 世は「多様性の時代」である。資格基準の硬直化は逆に名球会の権威を失墜せしめる。「昭和」に誕生した同会には今こそ「令和」のビジョンが求められる。

 

<この原稿は20年9月2日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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