テレビ朝日系で18年半にわたって放送されてきたサッカー情報番組「やべっちF.C.」が9月27日をもって終了する。サッカーファンに日本代表、Jリーグ、海外でプレーする日本人選手の動向など日本サッカーの情報を中心に届けてきた長寿番組だけあって、選手たちもSNSなどを通じて番組終了を惜しむメッセージを出している。

「やべっちF.C.」が終わってしまうんじゃないかというウワサは報道が出る前から筆者の耳にも届いていた。元々、テレビ朝日がAFC(アジアサッカー連盟)と2001年から放映権契約を結び、日本サッカーを盛り上げる目的で番組が誕生したと聞いている。しかしながら同局とAFCとの契約更新が果たされなかったことで、「やべっちF.C.」もひとつの役割を終えたという判断がなされたように感じる。

 

「やべっちF.C.」はファンのみならず、選手やチームスタッフからも愛された番組だった。それもこれもMCを務めるナインティナイン、矢部浩之の存在が大きい。サッカー経験者であり、サッカーに対する見識も広い。そして何よりも選手に対するリスペクト、サッカーに対する愛情があった。その“矢部イズム”が番組の根幹になっているため、普段はテレビ番組でなかなかお目にしない選手たちもここには登場していた印象がある。

 過去にインタビューさせてもらったことがある。2010年に「やべっちF.C.」のムック本制作に携わり「矢部浩之×名波浩」の対談記事を担当させてもらった。南アフリカワールドカップで日本代表の練習を見たときの話がとても印象に残っている。対談記事を一部、抜粋させていただく。

 

矢部: (グループリーグ第2戦の)オランダ戦に向けた練習を生で見たとき、中村俊輔選手がFKをバンバン練習で決めていました。本田圭佑選手も見ていたと思いますよ。僕は何かあの光景にジーンときちゃいました。俊輔選手は次もスタメンじゃないって分かっていたと思いますけど、あの決定率は尋常じゃなかったよね?

名波: そうですね。それも彼なりの意地じゃないですかね。

矢部: だから個人的には、南アフリカに行ってから俊輔選手の姿を目で追うようになっていました。なんか、俊輔選手の物語はドラマが1本できそうな感じやもんね。何か背中で語っている感じがあって、まあ世代は違いますけどカズさんが醸し出す雰囲気と似ているというか……。

(やべっちF.C.2010-2011特大号より)

 

 日本代表や選手たちのこれまでのストーリーを理解し、選手の心情を察する温かさとリスペクト感が伝わってくる。このとき筆者も同じ場所で取材していた。彼が日本代表の練習風景を熱心に見ていたことを覚えている。

 

 選手たちも矢部をリスペクトしていた。だからこそ、ファン必見の企画がいろいろと登場したのだと思う。

 なかでも衝撃的だったのが「デジっちが行く!」だ。シーズン前のキャンプで選手やスタッフがカメラを回すという企画。2017年に筆者がジュビロ磐田の鹿児島キャンプ取材で訪れた際に、偶然その“現場”に居合わせた。

 

 夕食後に中村俊輔のインタビューがあるため、食事会場の近くにある控え室にいたのだが、ドカンドカンと笑い声が響いてくる。

 一体何が? と思って会場から出てきた磐田のスタッフに聞いてみると中村と川又堅碁の移籍組2人がお笑いの「乳首ドリル」芸をやっているという。“されるほう”が川又で“するほう”が中村。見たいと思ったが、さすがに関係者以外は入れない。終わった後、全員が笑いながら会場を出てきた。

 

 当時38歳、大ベテランの域に入る中村がみんなの前でお笑い芸をやるとは正直、思ってもみなかった。「やべっちF.C.」で全国に流れるのも承知のうえ。「デジっち」パワーをまざまざと見せつけられた思いがした。こうやって各クラブが競って面白い動画を届ける“冬の風物詩”はエスカレートしていき、ちなみに2019年のジュビロ編は中村や大久保嘉人らがブルマ姿で「にゃんこスター」を披露している。

 

 試合や情報を伝えるだけでなく、選手のキャラクターや「サッカーっていいな」と思わせてくれる。ほかの番組なら無理でも、「やべっちF.C.」なら可能。その意味でも貴重な番組であった。

 

 しばらくは「やべっちF.C.ロス」になりそうである。


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