コロナ禍のなか、欧州の新シーズンが始まっている。

 移籍市場は例年に比べて静かなものだったが、トレンドのひとつが「古巣復帰」であった。

 

 イヴァン・ラキティッチはバルセロナからセビージャへ、ガレス・ベイルはレアル・マドリードからトッテナムへ、アルバロ・モラタはアトレティコ・マドリードからユベントスへ。ダビド・シルバはマンチェスター・シティから新しい所属先となるレアル・ソシエダへの移籍となったが、10年ぶりとなるスペイン帰還となった。

 

 欧州でキャリアを積み上げてきた日本人選手にもJリーグ復帰のウワサはあった。たとえばガラタサライを退団してフリーとなっていた長友佑都。しかし「FC東京に戻るんじゃないか」という話はウワサの域を出ず、酒井宏樹が在籍するマルセイユへと渡った。たとえばサラゴサ退団が決定的となっている香川真司。セレッソ大阪が調査に乗り出すという報道はあったものの、本人はあくまでスペイン内で移籍先を見つけたい意向だとか。日本復帰の可能性はほぼゼロと見ていい。

 

 日本のビッグネームたちが世界でチャレンジを続けることにケチをつけるつもりは毛頭ない。本田圭佑もオーストラリアの次にオランダを経て、ブラジルを新天地に選んでいる。向上心を高めていくには、むしろ海外のほうがいいというところもあるのだろう。

 

 しかしながらJリーグ復帰の選択肢がまったくないというのは少々残念な気もする。それこそ個人の自由とはいえ、「キャリア終盤はJリーグで」と考える選手がいないことにJリーグやJリーグの各クラブはもっと危機感を持ったほうがいい。

 シャルケで活躍した内田篤人は、日本に帰還したひとりだ。鹿島アントラーズに戻ってからもひざのケガとの戦いが続き、思うようなパフォーマンスを発揮できなかった。しかしアントラーズの選手とはどうあるべきかを示し続け、チームからもファン、サポーターからもリスペクトされた。

 内田がなぜそれほどまでに鹿島に対して愛着を持つことができたのか。

 鹿島は「ファミリーでなければならない」とするジーコの教えに沿い、結束や一体感を重視する。内田は鹿島から海外移籍を模索する際、クラブに移籍金を残すことにこだわったという。移籍してからもクラブとはコミュニケーションを取り、オフの際にはクラブハウスに顔を出していた。鹿島への帰属意識が強かったために、キャリアの分岐点に差し掛かったとき「アントラーズ復帰」が選択肢のひとつに入ったと言える。

 

 FC東京やセレッソ大阪も、もちろん選手個々を大切にしている。ただ、鹿島が他のクラブよりも上回っているとすれば「海外から日本に戻るときは古巣」という流れがしっかりつくれてあるかどうか。柳沢敦、小笠原満男、中田浩二ら先輩たちの背中を内田も見てきたという背景も少なからずあるだろう。

 

 日本からの海外移籍は若年化している。

 Jリーグのキャリアを数年こなしてから20歳前後で欧州に行くケースが増えており、育成組織からトップに昇格したとしてもこれではクラブへの帰属意識が生まれにくい。

 選手の帰属意識が高まるような魅力的なクラブにしていくしかないのだが、海外でプレーしてきた選手に「最後はウチで」という流れを敢えてつくっておくことも大事ではないだろうか。もしFC東京が長友を呼び戻すことに成功すれば、海外に出ていく(または出ていった)後輩たちがそれに続く可能性が出てくる。

 

 内田は鹿島でもシャルケでもレジェンドになり、いずれのファン、サポーターからも愛された。それがどれほど偉大で、どれほど素晴らしいことか。

 Jリーグに復帰する道をつくるのは、選手というよりもむしろクラブの意識を変えることのほうが先なのではないかとも考える。


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