(写真:今季5試合中4試合でバッテリーを組んでいる庄司<左>と安川)

 161日遅れの“開幕”となった第53回日本女子ソフトボールリーグは、9月の戦いを終えた。伊予銀行VERTZは白星スタートを切ると、2勝3敗の5位タイに付けている。最下位とは1敗差。7チームが5位に並ぶ大混戦を抜け出せるか。10月の6試合に懸かっている。

 

 

 

 

 まずは今季初戦を振り返ろう。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、前半戦が中止に追い込まれた日本リーグは、9月5日と6日に行われた後半戦開幕節が実質の開幕戦となった。伊予銀行は6日、2部からの昇格組・日本精工Brave Beariesが相手だった。

 

(写真:庄司は1勝3敗。エースの復活がチーム躍進のカギを握る)

 神奈川・大和スタジアムでの3試合目は、降雨により予定時刻から約1時間半遅れでプレーボールした。伊予銀行の“開幕投手”は2年連続で庄司奈々。秋元理紗監督は、昨季チーム最多の4勝を挙げ、リーグ7位(日本人トップ)の防御率1.60という好成績を残したエースに託した。

 

「自分は打たせて取るスタイル。バックを信じて投げました」

 しかし、初回から2本のヒットを浴び、1死二、三塁のピンチを迎えた。4番・山本悠未への4球目でエンドランを仕掛けてきたが、バッターが空振り。飛び出してきた三塁ランナーをアウトにした。山本はピッチャーゴロに打ち取り、初回をなんとかゼロで抑えた。

 

 ピンチの後にチャンスあり。その裏、1番・正木朝貴が三遊間を破るヒットで出塁すると、松成あゆみが手堅く送り、スコアリングポジションに進めた。2死二塁で、4番に抜擢された安川が左中間へ一発を見舞った。「完璧に捉えて、入ったと思った」と会心の当たりだった。「勝負強い」(秋元監督)ルーキーが4番キャッチャーという大抜擢に応えたかたちだ。前夜にスタメン4番を知らされた時のことを「“よっしゃ!”と“マジか”という、いろいろな感情がありました」と明かす。

 

 援護点をもらった庄司は毎回ランナーを出す苦しい内容も粘りのピッチングを披露した。3回に1点を返されたものの、最少失点で抑えた。バックもエースを支える。4回、6回には正木、甲斐はづきの二遊間コンビがゲッツーを完成させた。

 

(写真:試合後のインタビューで「2本目は体重のおかげで打てました」と饒舌だった安川)

 すると6回裏に追加点が生まれた。バットでエースを救ったのは女房役の安川だ。この回の先頭打者として打席に立ち、ライトへのホームランを放った。「チームが勝つための1本を打てた」と安川。これに勢い付いた伊予銀行打線は3連打で満塁のチャンスをつくると、相手のエラーと押し出しで、さらに2点を加えた。

 

 5-1で迎えた7回表、庄司は日本精工に打ち込まれ、2点を返された。2アウトまでこぎつけたものの、二塁にランナーを置き、一発を浴びれば追いつかれる。この場面で強い雨が球場に降り注いだ。やむなく試合は中断された。

 

(写真:6日の大和スタジアムは降雨で試合が中断するなど悪天候だった)

 1時間以上の中断を経て、庄司は再びマウンドに上がる。秋元監督も「代えることは考えていませんでした。エースが負けるならしょうがない」と腹を括り、彼女に命運を託した。庄司もブルペンで投球練習をしながら、気持ちを切らさなかった。

「連打を浴びている中だったので、リセットする時間と捉えていました。秋元監督からも『初回の先頭バッターの気持ちでいこう』とアドバイスをもらい、“もう一度やるぞ”と新しい気持ちで臨みました」

 

 庄司は再開後に迎えたバッターをインコースのボールを詰まらせ、ショートフライに打ち取った。5-3。最後まで投げ切ったエースは「まずは勝てて良かった」と語り、こう続けた。

「今日はバックに助けられた一日でした。連打を浴びてしまう部分もありましたが、いい当たりを野手が捕ってくれるチーム。出来自体は良くなかったが、チームが勝つことが一番大事です。3点取られた後は“絶対これ以上点をやらない”という気持ちで投げました」

 

(写真:監督就任以降、開幕戦は負けなしの秋元監督<中央>)

 伊予銀行はルーキーの活躍、エースの粘りで白星スタートを切った。しかし、第6節の太陽誘電ソルフィーユ戦は逆転負け、Honda Reverta戦ではノーヒットノーランを喫した。第7節の豊田自動織機シャイニングベガ戦にも敗れ、チームは3連敗。連敗中、ムードは暗くなりかけた。

 

 第7節2日目の日立サンディーバ戦は、「やるしかない」(秋元監督)と今季、東京富士大学から加わった黒木美紀を先発マウンドに送り、安川とのルーキーバッテリーに賭けた。

 

 黒木は立ち上がり、2イニングを6人で抑えるパーフェクトピッチング。好投のルーキーに4番樋口菜美が援護射撃する。3回表、2死二塁の場面で高めのボールをライトに弾き返した。打球はフェンスを越え、先制2ラン。「いい仕事をしてくれました」と秋元監督。主砲の今季2号で、伊予銀行が2点のリードを奪った。

 

(写真:「チームが勝つためのことを実践していきたい」とリードにこだわりを持つ安川)

 日本リーグ初先発ながら、黒木は3回まで1人もランナーを許さなかった。4回に四球、ヒットなどで2死満塁のピンチを迎えたものの、ホームを踏ませない。黒木は最後まで崩れることなかった。「期待通りの活躍でした」(秋元監督)。大学日本代表にも選出されたことのあるルーキーは先発デビューを2安打完封で飾り、連敗中のチームを救った。

 

 リーグ戦の約半分を消化し、2勝3敗。Honda、デンソーブライトペガサス、戸田中央総合病院メディックス、SGホールディングスギャラクシースターズ、シオノギ製薬ポポンギャルズと並ぶ5位タイだ。今季は上位5チームまでが決勝トーナメントに進める。トップのトヨタ自動車レッドテリアーズと豊田自動織機とは2敗差、最下位の日立とはわずか1敗差。ひとつの勝ち負けで順位が大きく動く大混戦となっている。

 

 秋元監督は残り6試合が行われる勝負の10月をこう見据えた。

「試合数は昨年の半分しかありません。相手がどこだろうが、星勘定をしている状況ではない。ここからは全部勝つつもりです。一戦一戦やることは一緒なんですが、プレッシャーのかかる場面が増えてくると思います。そういった状況でも結果を出せるように練習をしていきます。みんなで力を合わせてやっていきたい」

 

(写真/公益財団法人日本ソフトボール協会)

 

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