今季は新型コロナウィルス感染拡大の影響でプロ野球の開幕は約3カ月遅れました。120試合制に短縮されたとはいってもシーズンは6月から10月の4カ月間。例年ならば7カ月の長丁場です。それを最後まで戦い抜くプロ野球選手最大の資本といえば、やはり強靭な肉体です。


 埼玉西武では昨年から帝京大学と業務委託契約を結び、スポーツ医科学の見地から選手の栄養管理を強化しました。同大から派遣された管理栄養士が栄養面を考慮した献立の監修、個々の選手に合わせた栄養指導などを行います。球団では「選手の栄養への関心が高まり、シーズン通してベストパフォーマンスが発揮できることが期待できます」としていました。具体的には以下のような取り組みを実施しています。

 

・栄養面を考慮した選手寮メニューの監修
・一、二軍宿舎(遠征・キャンプ時などのホテル)での食事メニューの監修
・各選手の健康状態や環境など個々の選手に合わせた栄養指導の徹底およびアドバイス
・球団本部チーム統括部のメディカル・コンディショニンググループと連携し、怪我の予防ならびに怪我をした時の早期復帰に向けた栄養アドバイス

 

 西武のメディカル・コンディショニンググループディレクター広池浩司さんはこう説明しています。
「選手の体力の強化、けがの予防等に大きな効果が期待できると考えております。選手には管理栄養士さんのご指導のもと、食に対する意識をこれまで以上に高めて、長く第一線で活躍できる力を身につけて欲しいです。

 

 また、選手寮やチームの遠征先の宿舎での食事メニューの改善、運動前、運動中、運動後に摂取する水分や補食の見直し等、食に関する様々な取り組みをチームのメディカル・コンディショニンググループとも連携しておこなってまいります。この取り組みはすぐに結果がでるものではないかと思いますが、長期的には必ずチームの強化に繋がるものと確信しております」

 

 最近では選手自身も栄養学に関する知識を身につけ、体づくりに直結する日々の食事と向き合うようになっています。プロ野球の歴史の中で一番最初に「食事」の重要性を考えたのが、400勝投手として知られるレジェンド金田正一さんです。

 

 金田さんの持論はシンプルでした。
「食の細いヤツはプロでは大成せんよ」

 

 金田さんがロッテ監督を務めていた頃、キャンプの食事メニューは豪華でした。元ロッテの得津高宏さんはこう語っていました。

 

「夜はステーキに鍋までついてくる。もちろん、他にもおかずはたくさんある。金田さんはそれを1時間かけてゆっくり食べろ、という。消化のことを考えていたんでしょうね。
 キャンプに入って最初のうちは、その豪華な食事もまだ食べられるんです。体力がありますから。しかし、1週間くらい経つと練習がきつくて、体が受け付けなくなる。それでも僕らは無理をして食べていましたよ。それによって、あの厳しい練習がこなせるようになっていったんです」

 

 余談ですが三冠王・落合博満さんは、西武・山川穂高選手との対談番組で、「オマエ、食事の時間は20分なの? そりゃダメだよ。1時間や2時間かけてゆっくりと食べなきゃ」とダメ出しをしていました。

 

 スポーツ医学が進歩した今、やみくもに練習をすればパフォーマンスが向上するわけではないことがわかっています。プロ野球選手を含めたアスリートのコンディション維持には運動、休養、そして栄養の三大要素が不可欠だと言われています。

 

 金田さんといえば現役時代からランニング量は誰よりも抜きん出ていました。監督になっても「走れ、走れ!」という指導法でしたが、中には「走れば野球がうまくなるのか」といぶかる選手もいました。金田さんはこう反論したものです。


「大事なのは10走るためには20節制しなくちゃいかんということ。節制には休養もあれば栄養もあればリラクゼーションもあるということ。そこをケアしながら僕はやっていた。そのおかげで400勝できたんだからね」

 

 60年も昔から三大要素の重要性に気がついていた金田さんの先見の明と肉体マネジメントには頭が下がります。体が資本のプロ野球選手にとって、自分の体をどう作りあげ、そして維持・管理していくのか。それも実力のひとつです。

 

(文・まとめ/SC編集部・西崎)


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