(写真:10月5日に新シーズンへの全体練習をスタート)

 ジャパンラグビートップリーグ(TL)連覇へ着々と準備を進めている。神戸製鋼コベルコスティーラーズは9月30日に新体制を発表した。ニュージーランド代表84キャップのユーティリティーBKベン・スミス、同50キャップのSOアーロン・クルーデン、ジュニア・ジャパン(20歳前後の日本代表)で主将を務めたSO李承信ら8人の新戦力が加わった。新キャプテンはSH日和佐篤、LOトム・フランクリン。TLラストシーズンへの想いを、“ゴリさん”こと福本正幸チームディレクターに聞いた。

 

――先日、2020年度の新体制が発表されました。ウェイン・スミス総監督、デーブ・ディロンHC体制は継続。新たに日和佐選手とフランクリン選手の2人が共同主将に任命されました。日和佐選手はサントリーサンゴリアスから移籍してきてから3年目を迎えます。

福本正幸: まずはリーダーシップが一番重要です。日和佐は生え抜きではないものの、神戸出身でチームと親和性があります。兵庫県ラグビースクールを出ており、私は直接指導したことはありませんが、神戸のグラウンドでも練習していたこともあるんです。

 

――リーダーシップはどういった面を評価していますか?

福本: ウチはよくミーティングをしますが、彼はいつも積極的に意見をしてくれます。チームが目指すラグビーに対する理解力も高い。SHは起点になるポジションです。今のチームは日和佐なしでは成り立たない。彼を中心にチームをつくりあげようとしています。日和佐は若手に対し、自分の技術を惜しげもなく教え、チームのレベルを上げようと取り組んでくれている。チームプレーヤーでもあります。

 

――もうひとりのフランクリン選手のキャプテン起用はFWとBKのバランスを考えてのものなのか、チームに外国出身選手が多いことも理由でしょうか?

福本: ポジションはたまたまBKとFWに分かれただけです。もちろん外国人に対するコミュニケーションもひとつですが、彼はものすごくハードワークをする。チームでは神戸製鋼で働く社員たちを「スチールワーカー」と呼び、総監督のウェインが「彼らのように困難に立ち向かい、仲間のためにハードワークする姿を目指せ」と指導しています。その「スチールワーカー」をまさに体現しているのがフランクリン。ちょっとぐらいケガをしていても、試合に出る。骨が折れていても「痛い」と言わないような選手です。ウェインはチームのためにハードワークできるところに惚れて、彼をキャプテンにしたんだと思います。

 

――外国人選手ではニュージーランド代表での経験豊富なベン・スミス選手、クルーデン選手がチームに加わりました。

福本: LOブロディ・レタリックもそうですが、オールブラックスで長年コーチを務めたウェインがいたからチームに興味を持ってくれた。ニュージーランドでも神戸製鋼のことはニュースになっています。“ウェインが立て直したチーム”と、ニュージーランド国内でも関心が高い。「日本でプレーしたい」という選手の希望も、ウェインのところに届いているみたいですね。

 

――2018-19シーズンからダン・カーター選手が加入するなどビッグネームの獲得が続いています。日本に対する好印象もアドバンテージになっていますか?

福本: もちろんそれもありますし、「ウェインと一緒にやりたい」という声もあります。ウェインはチームの補強ポイントや選手のキャラクターを見極めている。神戸製鋼にとってプラスになる選手を選び、獲得に動いています。

 

――勝者のメンタリティーを持った選手を呼び、常勝軍団のサイクルをつくっていくということですね。

福本: そういうことです。ベン・スミスとは直接会いましたが、人として誠実な印象があります。それは昨シーズンまで神戸製鋼でプレーしたダン・カーターやアンドリュー・エリス、今季も引き続きプレーするレタリックにも共通する点ですね。要するにチームのために、ハードワークできるということ。そういった選手をウェインも選んでいると思います。

 

 将来のリーダー候補

 

(写真:会社、チーム、OBとの一体感を大切にしている)

――新戦力では、19歳の李承信選手も加わりました。彼は今年3月に「ワールドラグビー パシフィック・チャレンジ 2020」で優勝したジュニアジャパンの共同主将を務めた有望株です。夏に帝京大学を中退した後、海外留学を考えていたと伺いました。

福本: おっしゃるように彼が帝京大を辞めたのは海外に挑戦したかったからです。ニュージーランド留学の準備をしていましたが、コロナ禍で白紙になってしまった。そのため所属先もなく1人で練習していました。彼は日和佐と同じで兵庫県ラグビースクール出身の選手です。我々もなんとか力になりたいと思っていたんです。帝京大や周囲の理解も得て、ウチで練習できることになり、今月からチームに加入することになりました。

 

――福本さんは兵庫県ラグビースクールでもコーチ経験があり、李選手を指導したこともあるそうですね。彼を初めて見た時の印象は?

福本: 彼は中学2年の時、既に高校生レベルの実力を持っていました。2年生ながらチーム全体を引っ張るリーダーシップを持ち、パス、キック、ランを高いレベルで兼ね備えている。ラグビーIQも非常に高い選手ですね。

 

――中学生の時点で、かなり完成された選手だったと?

福本: そうなんです。大阪朝鮮高校に進んでからの活躍も見ていました。彼に直接話をしていませんが、“高校卒業後でも、すぐに活躍できるポテンシャルはあるな”と思っていました。ただ本人は帝京大でラグビーを続けるということだったので、私からは「頑張れよ」と声を掛けただけです。大学に進むかどうかは選手にとっても大きな選択。変にこちらが誘うことで、本人の気持ちがブレてはいけない。だから、その時は黙っていました。“大学を卒業したら、ウチに来るかな”とは思っていましたが、まさか今年からチームに加わることになるとはうれしい驚きでしたね。

 

――李選手はSOのほか、CTB、FBもこなせる万能型のバックスです。どんな育成プランを?

福本: 彼はどこをやってもできると思う。とにかく彼の力が100%伸ばせられるように我々が環境を整えたい。クルーデン、ベン・スミスや他の日本人選手などから刺激を受け、彼の成長の助けになったらと思います。海外志望もありますが、ウチはチーフスとパートナーシップ契約を結んでいますので、そういった点でも力になれるかもしれません。彼には将来代表を背負って欲しいし、いずれは神戸製鋼のリーダーを担える選手にもなれる。このまま真っ直ぐに成長してもらいたいと思います。

 

――チームを退団したエリスさんとカーター選手がアドバイザーに就任しました。その狙いとは?

福本: 私とウェインが互いにそうするべきだと考えました。せっかく世界的なスター選手がチームに加わったわけですからね。選手契約が終わっても、今後もレガシーとして彼らの存在は大切にしたい。2人に求めているのは、リーダーシップに加え、神戸製鋼に対する思いやレガシーを新しく入る外国人選手たちに伝えることです。彼らにはポジション別のスキルコーチみたいな役割にも期待しています。本人たちもアドバイザー就任を喜んでくれ、「神戸のためにやっていきたい」と言ってくれました。

 

――来年1月にはラストシーズンとなるTLが開幕します。

福本: 今年のTLは開幕から6連勝していましたが、残念ながらコロナによって途中で終わってしまいました。新シーズンは全勝で優勝し、我々のやってきたことが正しかったと証明したいと思います。

 

――その1年後には新リーグも控えています。

福本: 正直、運営面の不安はめちゃめちゃあります。スタジアム内のプロモーションも活動も自分たちでやっていかなければいけません。これからは自分たちの努力でお客さんを集められれば収益になる。昔からチームはファンサービスに力を入れていますが、今後はさらにお客さんに喜んでもらえるような環境づくりに取り組んでいきたいと思います。

 

福本正幸(ふくもと・まさゆき)プロフィール>

1967年10月16日、大阪府出身。小学生時代はラグビースクールに入ったものの、中学時代は水泳部に所属した。大阪・天王寺高進学後に本格的にラグビーを始めた。慶應義塾大学を経て90年、神戸製鋼所に入社。プロップとして日本選手権7連覇に貢献した。2000年に現役引退後、06年までチームマネジャーを務めた。07年から11年まで日本ラグビー協会に出向。12年からの5年間は社業に専念し、ラグビー部から離れた。17年5月にチームディレクターに就任。

 

(インタビュー構成/杉浦泰介、写真提供/神戸製鋼コベルコスティーラーズ)

 

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