スーパーラグビー(SR)のオタゴ・ハイランダーズ(ニュージーランド)への期限付き移籍を発表していたトップリーグのトヨタ自動車ヴェルブリッツNo.8姫野和樹が、22日にオンライン会見を行い、海外挑戦への想いを語った。

 

 10日前に発表された姫野の2021年1月から6月までの期限付き移籍。それは来年1月に開幕するトップリーグに出場しないことを意味する。海外のトップ選手も参加するトップリーグラストイヤーを選ばず、SRに挑む理由は「夢を叶えるため」だ。
「今後、ラグビーを日本になくてはならない存在にしたいという夢がある。そういった自分の夢を叶えるためにも、向こうで僕が活躍することで、子どもたちや選手たちに勇気や感動を与えることができれば日本ラグビーに大きなものをもたらすと考えています。 自分が成長する上でも、居心地の良い日本を離れ、またイチからハングリーにプレーすることが大事だと感じましたので、海外でプレーすることを選びました」
 
 海外でプレーしたい思いは以前から持っていた。その気持ちを加速させたのは昨年W杯日本大会だ。姫野は全5試合に出場、ジャパン初のベスト8進出に貢献した。準々決勝の南アフリカ戦もひとつのきっかけとなった。
「あれだけレベルの高いゲームを1週間ずつこなすことも初めての体験でした。南アフリカ戦は満身創痍だった部分もあったので、自分のプレーが全然できなかった。“もっと強くなりたい”という思いがすごく強くなりましたね。SRというレベルの高いリーグは毎週毎週準備して戦う。その中でタフになれることは大きなメリットがあると思い、SRに行くことを決めました」
 
 移籍先のハイランダーズはニュージーランド南島南部のダニーデンという街を本拠地としている。ジャパンのジェイミー・ジョセフHCが指揮を執った15年にSRを制覇し、かつてはSH田中史朗もプレーしたこともある。来季からはジャパンのアタックコーチのトニー・ブラウンコーチがHCに就任、S&Cコーチのサイモン・ジョーンズもスタッフ入りしており、日本に馴染みのあるチームだ。
「ブラウニー(ブラウンコーチ)もいるし、サイモンもいる。そういったところも選んだ理由のひとつです。僕のことをよく知っているし、足りないものをブラウニーはわかっている。そこを伸ばすためにも、僕のことを理解している人がいるのはすごく大きいと思いました」
 
 自身に足りないものとは――。「ニュージーランドの選手たちには見えていて、僕には見えていないものがある」と姫野は考えている。
「スキルを向上させたい。パスもそうですし、FWだけどBKのようなプレーができる。ステップを切って、オフロードパスをしたり、裏に抜けた選手のサポートに回り、トライする。そういうところのスキル(の成長)は期待していますね」
 
 21年のトップリーグを戦うトヨタ自動車にとって、姫野の離脱は大きな痛手だ。当然、首脳陣からは慰留もあった。
「トヨタのスティーブ・ハンセン(ディレクター・オブ・ラグビー)、サイモン・クロン(HC)からは『残ってほしい』と言われました。僕の中で(マイケル・)フーパーという存在はかなり大きく、彼から学べることはたくさんある。そういったこともハンセンやサイモンは言っていました。チームには(キーラン・)リードもいますから『そういったプレーヤーからも学ぶ機会もなかなかないよ』と。トヨタの首脳陣たちはそういう見解で、『海外に行くチャンスはまだあるから、大丈夫』という言葉もいただきました」
 トヨタ自動車には、ニュージーランド代表元主将のリード、新加入のオーストラリア代表主将フーパーというバックロー(FW後列)の生きた教材がいることが「すごく悩みました」と選択を迷わせた。
 
 一方で、彼の挑戦に背中を押す者が多かったのも事実である。ジャパンで共に戦ったジェイミー・ジョセフHC、リーチ・マイケル、堀江翔太らだ。
「ジェイミーに関しては『海外に挑戦することがすごく大事』と言っていました。『日本代表ヘッドコーチとしては、今季(21年)に行ってほしい』と。僕的にも再来年は新リーグが始まりますので、そういった意味では今季がチャンスかなと思ったので、このタイミングにしました」
 
 主にNo.8としてプレーした姫野だが、ジャパンとトヨタではLO、FLもこなした。ポジションについては「こだわりは特にないです。試合に出ることが第一優先。LOと言われればLOで出る準備をしますし、FLでも構わない。まずは試合に出ることが大事だと思っています」と口にし、目標をこう述べた。
「個人としては全試合に出場すること。チームとしてはSRの優勝を掲げていると思う。この2つが向こうでの目標です。自分のパッションだったり、リーダーシップも発揮したい。そういうふうにチームでリーダーとしても引っ張っていける存在になっていきたいと思っています」
 
 17年に入団したトヨタ自動車でルーキーイヤーからキャプテンを任された。姫野はこれまでの時間を振り返った。
「この4年間がなければ今の自分はない。人としても、ラグビー選手としても大きく成長できた。その中で本当にトヨタというチームに感謝しているし、自分の挑戦を受け、豊田章男社長からも『どんどん海外に出て活躍をすべきだ』とお言葉をいただき、より自分これからやらなければいけないことが明確になりました。本当にこういったかたちで送り出してくださるトヨタの関係者の皆様、会社には感謝の気持ちでいっぱいです」
 更なる成長を誓った26歳。より巧く、より強くなって帰ってくることが何よりの恩返しとなるだろう。
 
(文/杉浦泰介)