村上礼華(ダイキアクシス)と坂口佳穂(マイナビ/KBSC)は2019年1月からペアを結成し、現在は『CARINO DEA(カリーノデア)』というチームを組んでいる。イタリア語で「可愛い女神」を意味し、<誰よりも強く、可愛く。>をコンセプトとしている。

 

 

 

 

 

 

 今年6月に設立したファンクラブは、オープンから半月足らずで、多くの会員登録を計上している。ビーチバレー現役選手のファンクラブ開設は異例のケースだ。村上はその想いを語った。

「ビーチバレー選手初のファンクラブということで注目してもらえる分、結果を出さないといけないプレッシャーは少しありますが、応援してくれる方がいると改めて実感することができ、モチベーションに繋がっています。特に今シーズンは大会が少ない中、ファンクラブに入ってくれたり、応援してくれる人がいることで、モチベーションが上がっています」

 

『CARINO DEA』の2人が初めてペアを組んだのは、ドイツ・ミュンヘンで行われた2年前の世界大学選手権大会だ。武蔵野大4年の坂口と松山東雲女子大3年の村上。結果は15位だったが、実際に組んでみてもフィーリングは合った。

「元々、同年代の中で雰囲気が違いました。あまりしゃべったことはなかったんですが、気になっていた。自分とは違う考え方を持っていて、すごく魅力的な選手だなと思いましたね。私と一番違うのは、性格です。佳穂さんは人付き合いがうまく社交的、私は人見知りをするタイプ」

 

 一方の坂口に村上と初めてペアを組んだばかりの時の印象を聞くと、「しなやかに打つスパイクやパスのコントロール力がすごく、ビーチバレーを器用にこなす選手だなと感じました」と答え、こう続けた。

「長距離フライトで、飛行機に乗ってから到着するまでずっと寝ている姿を見た時は本当にびっくりしましたし、“すごいな”と思いました。“こんなに機内で寝られる人いるんだ”と初めて一緒に乗った時の驚きは今でも忘れません」

 

 相性は良かった。だが感覚だけでコンビネーションが上がるほどビーチバレーは甘い世界ではない。

「最初はお互いに何を思っているのか意思疎通ができていませんでした。ワールドツアーに出ても勝てなかったり、うまくいかなかった部分もありました。それでも試合を重ねていく中、本音で話せるようになり、チームワークが上がってきました」

 特に村上は年代別や学生の大会で出場する時以外は年上のパートナーと組むことが多く、その先輩についていくようなパターンだった。コート上には2人しかいない。腹を割って言い合えることは、試合のみならずコンビネーションを高めていく上で大切なことだ。村上は「佳穂さんと組ませてもらい、ビーチバレーに対する取り組み方が変わった」と、ペア結成後の変化を口にした。

 

 夢が現実的な目標へ

 

 春のFIVB(国際ビーチバレー連盟)ワールドツアーでは結果が出なかったものの、夏に入ると徐々に結果が出始めた。7月に「マイナビジャパンビーチバレーボールツアー」(BVT)の第3戦沖縄大会でペアとして初優勝を飾ると、韓国で行われたワールドツアー大邱大会(1star)では準優勝した。BVT第4戦東京大会でBVT連続優勝。8月にリヒテンシュタインでのワールドツアーファドゥーツ大会で準優勝した。大阪で開催された全日本選手権では4位に入った。

 

『CARINO DEA』はペア結成1年目で、BVT年間全7戦のポイント上位など8チームが出場できるツアーファイナルにトップタイの5068ポイントを獲得して出場を決めた。ツアーファイナルは、大阪市北区の複合商業施設グランフロント大阪特設コートで行われた。

 

 初戦、準決勝をストレートで勝ち上がると、決勝は鈴木千代(クロス・ヘッド)と坂口由里香(当時・オーイング。現・大樹グループ)と対戦した。この年の3月と6月にワールドツアー(2star)2大会で銅メダルを獲得している強敵だ。

 

 第1セットは一進一退の攻防が続いた。両チームが点を取り合い、デュースの末、28-26で制した。27-26の場面では、レシーブを崩されながら、見事なコンビネーションで繋いだ。最後は村上のスパイクを相手が返し切れずに28点目をもぎ取った。これで勢いに乗った『CARINO DEA』は第2セットを21-14。全戦ストレートでツアーファイナル初優勝を達成した。

 

 日本のトップ選手たちが集うツアーファイナルを優勝したことは、『CARINO DEA』にとってのターニングポイントとなった。決勝で対戦した鈴木と坂口由里香のペアには全日本選手権3位決定戦で敗れるなど勝ったことがなかった。坂口佳穂は「2019年の国内ツアー最終戦グランフロント大阪大会を優勝したことは、2人の技術や精神的な部分の成長を感じた大会でしたし、選手もチームスタッフも可能性を感じた時だったと思います」と振り返る。

 

 大山加奈に憧れ、インドアのバレーボールを始めた村上にとっても、大阪での勝利は小さい頃からの夢が、現実的な目標へと近付いた瞬間だった。

「インドアのバレーを見ていて、“オリンピックにいつか出てみたい”と思っていました。将来の夢にも書いていましたから。出たいという気持ちはあったんですが、ツアーファイナルで優勝してから、その気持ちは強くなりましたね」

 

 勢いに乗る『CARINO DEA』は11月にイスラエルで行われたワールドツアーテルアビブ大会(1star)を制した。準決勝では大邱大会決勝で敗れたロシアのペアに雪辱を果たすなど成長を見せた。年が明ければ、7月に東京オリンピックが控えていた。出場権を勝ち取るためには5月の日本代表決定戦で優勝する必要があった。伸びしろ十分のライジングスターは、そこに手を伸ばそうとしていた。

 

 星の数を増やすため

 

 ところが、今年3月、東京オリンピック・パラリンピックの1年延期が発表された。今もなお世界中に猛威を振るう新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてのものだ。5月に開催予定だった代表決定戦も当然ながら、後ろ倒しとなった。

 

『CARINO DEA』としては結果が出始めてきた中での、延期である。ショックは大きかったはず。そのことについて尋ねると、村上からはこう返ってきた。

「ショックよりもビックリが大きかった。その後、自粛に入り、“どうなるんだろう?”と思っていました。モチベーションが下がったというよりはビーチバレー自体が好きなので、また競技ができることが楽しみだった。延期になった分、フィジカルや技術を鍛える時間が増えたと思えたので、ポジティブな面の方が多いです」

 

 延期をポジティブに捉えることができたのも成長の証だろう。どちらかと言えば、村上はネガティブ志向になることが多かった。試合でミスが続くこともあれば、状況によっては耐える時間もある。得意のサーブですら、不安に感じることもあるという。「気持ちの浮き沈みがないように意識しています」。それゆえ現在の座右の銘は「瞬間(とき)を生きる」だ。「その言葉を忘れないようにしている」と村上。試合中、気落ちもすることも、自らにイライラすることもあるかもしれないが、ネガティブに考えることでプレーの質が落ちるのはもったいない。そのため彼女は“一瞬一瞬を大切にしよう”と、前向きな気持ちを心掛けているのだ。

 

 東京オリンピックがゴールではない。彼女が掲げる目標は決して低くはない。

「世界で通用するチームになるのが目標です。オリンピックに出場することも目標ですが、ワールドツアーの3star、4star、5starというレベルの高い大会でコンスタントに勝てるようになりたい」

 1987年から始まったビーチバレーのワールドツアーは、レギュラー大会が「5star」「4star」「3star」「2star」「1star」と5段階に分かれている。“星”の数が多ければ多いほどグレードは高い。『CARINO DEA』が昨年11月に優勝したのは1star。1starでは4大会で表彰台に上がったが、2star以上となるとベスト8の壁を破れていないのが実情だ。

 

 星数を増やすために必要なものは――。松山東雲女子大学に村上をスカウトした福井(旧姓・佐伯)美香監督は、『CARINO DEA』のスーパーバイザーとして今も村上にアドバイスを送るなど交流を続けている。福井監督の見立てはこうだ。

「2人で意識を高く持ち、どれだけ2人で高め合っていけるかが重要だと思います。身長は世界で見るとそんなに大きくはない。世界でメダルを目指すためには、安定したレシーブ力を含め、全体的なプレーの安定感が必須です。風が強い時や砂が深い時の対応力など、まだまだ課題はあります。年間を通して戦うためにも、いかに身体を強くしていくかも大事なことです。まだまだ成長できる部分はたくさんあるなと思っています」

 

 村上たちが白星を積み重ね、目標を達成するためには、技術、タフさ、そして『CARINO DEA』のコンビネーションに磨きをかけなければならない。「私たちは長い期間、ペアを組み、チーム力を高めていきたいと思っています。練習以外でもいろいろな話を交わし、考えを共有しています」。<誰よりも強く、可愛く。>を目指すライジングスターが誰よりも光り輝くために――。

 

(おわり)

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村上礼華(むらかみ・れいか)プロフィール>

1997年1月10日、兵庫県生まれ。ダイキアクシス所属。小学1年からバレーを始める。淡路三原高校入学後、ビーチバレーを経験。高校女子全日本選手権大会で松山東雲女子大学コーチである福井(旧姓・佐伯)美香の目に留まり、同大へ入学した。17年からシニア日本代表入り。U21アジア選手権大会準優勝の好成績を挙げた。18年は全日本大学選手権に優勝し、世界大学選手権大会に出場。ジャパンビーチバレーボールツアー(BVT)で初優勝した。昨年から坂口佳穂(マイナビ)と本格的にペアを組み、BVT2戦で優勝。同ファイナル初制覇を成し遂げた。11月にはFIVBワールドツアー1starイスラエル大会を制した。身長173cm。

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(文/杉浦泰介)

 

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