(写真:今季は2試合目に初黒星を喫したもの、3試合目以降は9連勝。10勝1敗と断トツ1位で決勝トーナメント進出を決めたトヨタ自動車)

 日本女子ソフトボールリーグの決勝トーナメントは7日から2日間、愛知・瑞穂パロマ野球場で行われる。例年より1枠増えた今季はリーグ戦上位5チームによるページシステム方式で優勝が争われる。新型コロナウイルスの影響により、後半戦11試合のみの開催となったリーグ戦でトップ通過を果たしたのが、2年ぶりの王座奪還を目指すトヨタ自動車レッドテリアーズだ。就任4年目の中西あかね監督に抱負を聞いた。

 

――決勝トーナメントへの意気込みを。

中西あかね: リーグ戦が終わって2週間で決勝トーナメントを迎えます。例年より間隔が短く、ゲーム勘を維持した状態で、いい準備ができていると思います。

 

――10勝1敗、1位で決勝トーナメント進出を果たしました。

中西: 今季はエースのモニカ・アボットの合流が遅れ、厳しい戦いになるだろうとの予想の下に迎えました。若いピッチャーが頑張ってくれた。経験豊富な野手陣が打って守って、投手陣を援護してくれました。後半開幕節でビックカメラ(高崎BEE QUEEN)さんとの試合をいいかたちで終えられたのは大きかった。この試合を含め、シーズンを通して打線の切れ目がなく、どこからでも点を取れる攻撃ができたと思います。長打がたくさん出たわけではないんですが、ワンチャンスをモノにする勝負強いところを見せてくれました。

 

――今季のチームスローガンは「徹底」です。

中西: 自分やチームで決めたことを最後までやり切る。試合中は最後まで気を抜かずに1点を取りにいく。今季はそれを全員が徹底できました。1プレー1プレーしっかり守り抜くことも含め、チームの戦い方として、スローガン通りに徹底できたのかなと思っています。

 

中西あかね(なかにし・あかね)1980年1月4日、三重県出身。三重高を経て、98年トヨタ自動車入社。内野手として10年プレーした。現役引退後の08年から9年間コーチを務め、17年から監督に就任。18年、リーグ優勝に導いた。背番号30。

――リーグ戦で印象に残った選手は?

中西: ピッチャーで言えば、2年目の後藤(希友)ですね。試合を追うごとに自信を持って投げている印象があり、しっかりゲームをつくれるところを見せてくれました。

 

――9試合に先発し、リーグ2位の5勝を挙げ、防御率はリーグ4位の1.42という好成績を残しました。

中西: 後藤は相手の狙いをマウンドで感じながら投げられるようになってきているように見えます。特に今年は“自分が投げなければいけない”という責任感を持って投げてくれたと思います。

 

――野手で目立った選手は?

中西: 鈴木(鮎美)。一見、彼女の守備は難しく見えないんですが、チームが助けられたプレーは何度もありました。打ってはチャンスで勝負強いバッティングを見せてくれた。

 

――今季は昨年のチームからアメリカ代表のアリー・アギュラー選手と元日本代表の坂元令奈選手(今季からコーチ)らが抜けたシーズンでした。

中西: 先ほどの鈴木もそうですけど、坂元とアギュラーが抜けたことで、選手たちが“自分たちでやらなければいけない”という責任感を持ってくれました。セカンドの鎌田優希は全11試合に出場しました。坂元と同じような打撃はできないんですが、守備力では坂元に負けていない。坂元の不在を感じさせないくらいの働きをしてくれました。

 

――堤加奈子選手も今年チャンスを掴んだひとりです。

中西: 身体は小さいのですが、思い切りがいい。アギュラーが抜けたレギュラーの座を、自分で掴んだところがあります。

 

――投手陣ではアボット投手が新型コロナウイルス感染拡大の影響により、合流が遅れました。残りの5投手でやり繰りしていく難しさはありましたか?

中西: シーズンは待ってくれませんから、その時にいるピッチャーでなんとかするしかありませんでした。コーチともいろいろと話し合いながら、起用法を考えました。点を取られることも覚悟の上。それが打撃陣の奮起に繋がったのかなと思います。

 

――決勝トーナメントのポイントは?

中西: リーグ戦と同じように守備で自分たちのリズムをつくりたい。それが私たちの強みです。自分たちのペースで試合をすることが、一番大事だと思っています。今季は「1点でも多くバッテリーを援護しよう」と言ってきました。最後まで集中力を切らさずに攻撃陣が頑張ってくれると期待しています。

 

――キープレーヤーを挙げるなら?

中西: それが誰になるかも楽しみにしています。みんな良い状態ですし、自信を持って臨んでほしいと思います。

 

 成長著しい“ミニモニカ”

 

 中西監督が今季の成長株にあげた後藤は、高卒2年目のサウスポーだ。174cmの長身から繰り出すストレートの最速は113km。今季は開幕投手も任されるなど、ビックカメラ高崎の上野由岐子と投げ合い、勝利に貢献した。勝利数と防御率は日本人トップ。日本代表の強化指定選手にも選ばれているホープだ。

 

――週末に決勝トーナメントが控えています。

後藤希友: 昨季は4位での決勝トーナメント進出で、最終順位は3位でした。チームとしていい結果を残すことができなかったので、今年こそしっかり王座奪還を狙っていきたい。

 

――2年目の今季と昨季とで気持ちの部分で変化はありましたか?

後藤: 今季はモニカが途中からしか出場できないということが分かっていました。そのことを聞いた時に“自分自身がしっかり勝負に繋げられるピッチングをしないといけない”と感じました。やるべきことはひとつだけ。登板機会を与えてもらうことがあれば、チーム全員が盛り上がれるような試合展開をつくっていければいいなと思っています。

 

――昨季は決勝トーナメント2試合をアボット投手ひとりが投げ抜きました。

後藤: 私の力が及ばなかったので、モニカひとりに投げさせてしまった。“自分の実力が足りないから投げられないんだ”と痛感しましたし、決勝トーナメントが終わった後は悔しさが込みあげてきました。

 

後藤希友(ごとう・みう)2001年3月2日、愛知県出身。小学4年生でソフトボールを始める。東海学園高を経て、19年トヨタ自動車入社。高校2年時には日本代表強化指定選手に選ばれ、日米対抗に出場した。MAX113kmの動くストレートが武器。今季は9試合に登板、5勝0敗、防御率1.42とリーグ戦1位に貢献した。身長174cm。左投げ左打ち。背番号18。

――悔しさを糧に取り組んだことは?

後藤: 1年目は相手がノーデータの状態で、思い切り挑むことができた。自信のあるボールを投げてきましたが、2年目になると去年のデータが蓄積されたことで相手も対策を練ってくる。そのことを頭に置きながら、“どういうピッチングをするか”をキャッチャーの方たちと話してきました。

 

――具体的には?

後藤: 球種が少ないので、その数を増やすことが大事だと実感しました。しかし変化球を覚えても、それをすぐに試合で使えるようになるとは限りません。今、何ができるかと言われれば真っすぐの質を上げることです。私はスピードを重視していますが、打ち取れればスピードは関係ない。ボールの回転数や、動きなど相手が嫌がるかをしっかり研究しながらやってきました。

 

――今季の5勝0敗、防御率1.42という数字に関しては?

後藤: 正直言うと、いいとは思っていません。野手に助けてもらったというのが事実。5勝といっても、自分のピッチングが勝利に繋げられたかというと、1、2試合だけだったと思っています。

 

――エースのアボット投手は、同じサウスポー。ライバルという意識もある?

後藤: 今はライバルと言える立場ではないですが、“モニカを超えたい”とは常に思っています。最終的にチームを救っているのはモニカ。彼女がいないと勝てなかったかもしれない試合は何度もあり、助けてもらっている。目の前で見ていても学ぶことがたくさんあります。日本に12年間もいて、対策を練られながらも、あれだけ抑えられるのが、何よりもすごい。

 

――アボット投手が後藤投手を「ミニモニカ」と評している記事もありました。

後藤: “世界のモニカ・アボット”に言ってもらえるなら光栄なこと。上野さんとモニカは世界のナンバーワンピッチャー。その方たちが目の前にいて、同じ場所でプレーできることは当たり前ではない。貴重な経験をさせてもらっていると感じています。

 

――決勝トーナメント初戦はビックカメラ高崎と対戦します。毎年優勝を争うチームで、比較されることも多い。

後藤: 昨季のリーグ戦はモニカがいない時に投げましたし、今季の後半戦開幕節でも先発しました。昨年日本一になっているチームですし、絶対に負けたくない。上野さんがいらっしゃる強いチームですから、当然意識しています。

 

――チームのスローガンは「徹底」です。今季、後藤投手が徹底したことは?

後藤: 点を取られても引きずらないことです。失点した次の回に切り替えるということは、試合を重ねていくことで、より大事だなと感じました。開幕節の時も初回にホームランを打たれましたが、後続をしっかり抑えられた。その後、野手の方たちがたくさん打ってくれました。野手に助けてもらった試合はいくつもありました。だから失点した後こそ、いかに抑えられるか、気持ちをどこまで切り替えられるかを大事にしています。

 

 勝負強いキャプテン

 

「野手に助けてもらった」と後藤が振り返るようにトヨタ自動車は、1試合平均5.64得点を誇り、無得点試合は1度もなかった。キャプテン3年目で、今季は4番に座る古澤春菜は打点王に輝いた。「ここで決めてほしいという時に絶対打ってくれる。点を取られて不安な時も、古澤さんに打順が回ってきたら何かを起こしてくれる」(後藤)など、勝負強さが光った。中西監督が「元気も良いし、体の強さもあるので練習を休むようなこともない。プレーとソフトボールに対する姿勢でチームを引っ張ってくれる選手」と絶大な信頼を寄せるリーダーに話を聞いた。

 

――今季はコロナ禍により、前半戦が中止。後半戦11試合のみの異例のシーズンでした。

古澤春菜: 前半戦がなかったので、気持ちが切れたり、ネガティブな方向にいくかもしれないとの心配はありました。やはり開催が決まってからみんな集中して、やるからには優勝をという目標をしっかり立てて、試合に臨めたのが良かった。

 

――10勝1敗で1位通過しました。

古澤: 2試合目で逆転負けを喫し、序盤に1敗するかたちになりました。この先、どうなるか不安にもなりましたが、翌日からチーム全員が気持ちを切り替えることができました。3試合目からリーグ戦最終戦まで連勝することができました。

 

古澤春菜(ふるさわ・はるな)1993年3月7日、京都府出身。小学4年生でソフトボールを始める。京都西山高、園田学園女子大を経て、15年トヨタ自動車に入社。18年からキャプテンを務める。今季は4番に座り、リーグ戦で12打点を記録。初のタイトル(打点王)を獲得した。身長152cm。右投げ右打ち。背番号10。

――今季は4番を任され、12打点でチームメイトの山崎早紀選手と並びリーグトップでした。個人の出来は?

古澤: 正直、打点王を獲れるとは思っていませんでした。元々は積極的に振るタイプだったんですが、今季はチャンスで冷静にバットを振ることができました。

 

――4番の責任を果たせましたか?

古澤: そうですね。みんなが打てない時に打つことができたと思います。逆に私の調子が悪い時には周りのみんなが打ってくれた。今季は1試合ごとにヒーローが違う。それがいいかたちで勝利となり、10勝につながったと思います。

 

――今季はアボット投手の合流が遅れました。

古澤: いつもあまり投げていないピッチャーがリーグ戦の舞台に立ちました。野手が打って点を取り、ピッチャーに楽をさせたいという気持ちで臨みました。

 

――リーグ戦を振り返り、古澤選手が選ぶMVPは?

古澤: ピッチャーで言うと後藤選手。野手は1番から9番ですね。相手からするとどのバッターも気が抜けない。下位打線でもホームランを打てます。打線の繋がりが今季はすごく良かったと思っています。

 

――今季のチームスローガンは「徹底」です。キャプテンとして徹底してきたことは?

古澤: 守備のところで、練習の時から質にこだわってきました。それはチームのみんなにもずっと声をかけてやってきた。「日頃から徹底しよう」と声掛けをすることで、ひとりひとりの意識にも繋がった。そういうところが徹底できたのかなと思います。

 

――勝ちにこだわる姿勢、1点にこだわる姿勢というのは、トヨタ自動車に脈々と受け継がれている伝統でしょうか?

古澤: はい。ひとつのミスで負けてしまうこともある。ひとつの送球ミスが負けに繋がるということをずっと練習の時から言ってきました。選手全員が“今、自分の何がダメなのか”を理解して練習をしています。バントができなかったらとことんバント練習をする。そういう姿勢が全員に身に付いていると思います。

 

――決勝トーナメントで対戦するビックカメラ高崎とは毎年優勝を争っています。

古澤: そうですね。ビックカメラを倒さないと優勝できないという気持ちでやってきました。

 

――王座奪還のためのポイントは?

古澤: まず点をとること。リーグ戦のように、ひとりひとりが打ち、相手よりたくさん点をとる。全員が打って勝ちたいと思っています。

 

 決勝トーナメント初日(7日)の第1試合はリーグ戦4位の豊田自動織機シャイニングベガと同5位のデンソーペガサスが対戦する。豊田自動織機はダラス・エスコベド、デンソーはカーリー・フーバーという外国人エースを擁する。リーグを代表する両右腕の出来が勝敗を分けそうだ。第1試合の勝者は同じ日の第3試合でリーグ戦3位Honda Rivertaと戦う。昨季準優勝Hondaの投手陣はエースのジェイリン・フォードに加え、アリー・カーダ、常盤紫文が控えている。昨季の快進撃を支えた打線に当たりが戻れば、翌日のダブルヘッダーを見据えた投手起用もできるだろう。第3試合の勝者が3位決定戦へと駒を進める。第1試合の敗者は5位、第3試合の敗者は4位となる。

 

 リーグ戦1位のトヨタ自動車と同2位のビックカメラ高崎は、初日の第2試合で決勝進出を賭けて戦う。毎年優勝を分け合ってきた両チーム。ここ10年近く、交互に日本一に輝いているライバル対決だ。トヨタ自動車はアボット、ビックカメラ高崎は上野と世界を代表するエースを擁している。リーグ戦は一度も先発しなかったアボットの起用法にも注目が集まる。ともに打線は日本代表クラスがズラリと並び、2番手以降も実力のある投手が控えている。一方がこの試合で敗れても決勝は両チームの再戦となる可能性も十分だ。

 

 パロマ瑞穂野球場を舞台に、女子ソフトボール日本一を決める戦いがいよいよスタートする。

 

 BS11では今シーズンも日本女子ソフトボールリーグ決勝トーナメントを中継します。11月7日(土)のトヨタ自動車レッドテリアーズvs.ビックカメラ高崎BEE QUEENは20時に放送。翌日の決勝は19時オンエアです。今シーズンの総決算をぜひお楽しみください!


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