(写真:熱血漢として知られ、地方クラブを上位進出に導いてきた実績を持つ浜口HC)

 10月から東西の2地区制でB1リーグは始まった。中でもチャンピオンシップ(CS)ファイナル出場経験のある強豪が揃う東地区は激戦区だ。昨季の中地区から今季は東地区に入った富山グラウジーズは12月23日現在、14勝9敗の5位でCS出場圏内に付けている。今季から富山の指揮を執る浜口炎HCに話を聞いた。

 

――今季は3地区制から2地区制に変わり、東地区は激戦区と言われています。シーズンを迎えるにあたって不安はありましたか?

浜口炎: 正直、“どうなるのかな”という不安はありましたが、強豪揃いのカンファレンスでやれる楽しみもありました。ここまでは選手がよく頑張ってくれていて、チームとして順調にきていると思います。

 

――富山の強みは?

浜口: オフェンス能力、得点を取る力は高い。ディフェンス面もだいぶ良くなってきているので、ターンオーバーの数を減らしていきたいと思っています。

 

――昨季まではbjリーグ時代を含め9シーズン、京都ハンナリーズで指揮を執っていました。外から見た富山の印象は?

浜口: 強豪チームと戦っても勝つ力がある。爆発力があり、1対1の能力が高いチームという印象を受けていました。運動能力、身体能力の高い選手が多い。実際、富山に来てからもその印象は変わりません。加えて全体練習の後、個人練習にも一生懸命取り組んでおり、練習熱心と感じましたね。

 

――富山は個の能力が高い選手が揃っている印象があります。

浜口: PG(宇都)直輝、PFジュリアン(・マブンガ)、PG(岡田)侑大、SG(松脇)圭志らドリブルが巧く、ボールを前に運ぶ力を持っている選手が多い。その意味では速い展開で得点を奪えます。リーグの中でも速いバスケットをしていると思います。

 

――個の能力が高いがゆえに、ボールを持ち過ぎてしまうきらいもあるのでは?

浜口: 個の力ではうまくいかない時間帯があるように、個で打開したことによって流れが変わることもあります。“諸刃の剣”ではあるのですが、状況を見ながら判断し、選手たちに指示を出しています。

 

――富山のHCに就任し、新たに取り組んだことは?

浜口: 選手の入れ替えが多いチームなので、ハードな練習を積み重ね、お互いの長所短所を知る必要がありました。今は連係面を強化するため、5対5のゲーム形式の練習を中心にしています。選手同士のコミュニケーションを増やすため、練習の前後にハドル(円陣)を組むことを徹底しました。そのおかげで選手が試合中も練習中も納得するまで話をするようになってきた。コートで感じたことを互いに言い合い、自分たちで課題を解決できるようになったのは、いい変化の表れだと思います。

 

――それだけ浜口HCはチームワークを重要視していると?

浜口: はい。試合中、私はコートの中に入れません。だからこそ選手同士でコミュニケーションが取れないとダメなんです。また数字に表れない部分でもチームメイトを助け、気を利かせることは、チームとして大切だと思っています。

 

 躍動感のあるバスケット

 

浜口炎(はまぐち・ほのお)1969年12月17日、東京都出身。東京都立向丘高-愛知学泉大を経て指導者の道へ。04年にトヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)のACに就任。翌年からbjリーグに参戦する仙台89ERSの初代HCに就いた。11年には京都ハンナリーズのHCに就任。bjリーグ、B.LEAGUE合わせて9シーズン指揮を執った。bjリーグは4度のプレイオフ進出、B.LEAGUEでは17-18シーズンにチャンピオンシップ進出に導いた。今季より富山グラウジーズのHCに就任した。

――リーグ2位の得点力(1試合平均90点)に目を奪われがちですが、ルーキーの松脇選手のように守備での貢献度が高い選手もいます。

浜口: 圭志はチームのために我慢ができる。ディフェンスで相手のスコアラーを抑え、体を張れる選手の存在はすごく大きいですね。

 

――浜口HCと一緒に京都から加わったマブンガ選手は1試合平均20.8得点(リーグ3位)、7.6アシスト(同1位)、7.7リバウンド(同15位)とオールラウンドな活躍が光っています。

浜口: ジュリアンがコート内でリーダーシップを発揮してくれるのですごく助かっています。バスケットIQが高い。どうすればいいかを瞬時にジャッジできるし、チームに対するロイヤリティもある。どこかが痛くても弱音を吐きませんし、チームのために戦ってくれる選手です。ボールを離さない印象はあるかもしれないですが、得点へのこだわりよりも「チームが勝てばいい」と考えられるタイプ。すごく賢いチームプレーヤーだと感じています。

 

――個の能力も高い選手ですが、浜口HCから見て、優れている点は?

浜口: スピードはあまりないのですが、駆け引きで相手を抜ける巧さがある。意外に思われるかもしれませんが、ディフェンス能力も非常に高いんです。第13節の川崎ブレイブサンダース戦ではマークについたニック・ファジーカス選手を2戦とも1ケタ得点に抑えました。

 

――チームの顔であるキャプテンの宇都選手に対しては「日本代表に復帰させたい」との思いがあるそうですね。

浜口: 直輝はスピードがあり、ドリブル能力があります。積極的にゴール下へ切り込み、レイアップを決められる日本人選手はなかなかいない。彼はアウトサイドのシュートを課題としていて、夏から取り組んでいます。その成果もあり、昨季に比べるとアウトサイドでシュートを打つ機会も増えてきました。アウトサイドの精度を高めていけば、代表復帰も見えてくると思います。

 

――チームスローガンは18-19シーズンからの「喰らいつけ。」を継続しています。熱血漢で知られる浜口HCのキャラクターと合っていますね。

浜口: 強豪チームに喰らいつき、勝ちをもぎ取る。そういう強い気持ちを選手に求めています。私自身、ルーズボールやリバウンドを取りにいく姿勢をすごく大事にしているので、このスローガンはとても合っていると感じます。

 

――チームは過去4シーズン(昨季はCSを行わずに終了)で、ベスト8が最高です。上位陣に“喰らいつき”大物食いを果たしたいと?

浜口: ひとつひとつ成長していけば、CSで上位に進出できる力は十分にあります。富山は躍動感があり、ベンチで一緒に戦っていても楽しいチームです。まずはCS出場。そこから頂点を目指したいと思っています。

 

(写真:昨季の3ポイントシュート成功率は日本人4位(リーグ6位)の39.9%。今季はそれを上回る成功率をマークしている)

「下剋上精神で燃える」

 

 昨季新人王に輝いたSF前田悟は“2年目のジンクス”を感じさせない活躍を見せている。ここまで全23試合にスタメン出場。1試合平均10.7得点をあげ、リーグ4位の3ポイントシュート成功率43.5%を誇る。「悟がアウトサイドにいるから、相手のディフェンスがヘルプにいけず、ドライブを得意とする選手がゴール下に切れ込むができる」と浜口HC。「ボールハンドリング能力と、速い選手をきっちりマークできる能力が加われば、日本代表も視野に入ってくる選手」と続けた。

 

――第14節終了時点で、14勝9敗で東地区5位に付けています。

前田悟: 序盤戦は勝ち星を重ねていましたが、東地区の上位と当たるようになると負けも目立つようになってきました。上位との対戦では勝てるゲームを落とすこともありましたし、そこを詰めていかないとCSに出られない。チームとして、もう1ランク上に行けるように頑張りたい。

 

――開幕前、「激戦区」と言われる東地区に入った時の率直な感想は?

前田: 強いチームと戦えることはモチベーションになります。富山という地方クラブがビッグクラブを倒す。個人的には下剋上精神で燃えるので、“やってやるぞ”との思いが強かった。

 

――今季はマブンガ選手、PFリチャード・ソロモン選手、岡田選手、ベテランのSG城宝匡史選手、新人の松脇選手などが加わり、ロースターの半数が入れ替わりました。

前田: ハマった時の得点力はどのチームにも止められないと思います。ディフェンスも昨季より良くなっている。ただ、試合中、うまくいかない時に崩れてしまうのが課題です。点差が開いた時にも我慢することができるようになれば、もっと上の順位を狙えると思います。

 

――新加入でいうと、浜口HCも同じです。

前田: 他のチームを指揮している時は“熱いコーチだな”という印象でした。実際に試合の時、熱くなることもあります。だからと言って(浜口)炎さんは頭に血が上って選手たちを抑えつけるようなことはしません。「オマエはどうしたいんだ?」と、僕たちの意見を聞き入れてくれますし、すごくやりやすいコーチですね。

 

――浜口HCは就任後、チームの連係を深めることを意識したとおっしゃっていました。

前田: 今季の富山はメンバーが大きく入れ替わりました。長年同じメンバーで戦っているクラブと比べれば即席チーム。たくさんのコミュニケーションを取っていかないとチームとして成り立たない。炎さんの言われた通りに僕らも選手間のコミュニケーションを図り、徐々に個々の長所短所がわかってきました。選手それぞれをどう生かすのか。今季から加わったジュリアン(・マブンガ)に対し、僕も「こうしてほしい」と要望を伝えています。

 

――前田選手ご自身のことも伺いたいと思います。今季ここまでの手応えは?

前田: あまりいいパフォーマンスができなかった。昨季よりもボールに触る回数が少なくなり、悩む部分もありました。ある人に「建設的なギブアップはいいんだよ。前向きな諦めも大事」と言われ、“バスケットを楽しもう”と原点に戻ってプレーするようになりました。これからは、もっとガンガンいこうと思っています。

 

――昨季は新人王に輝きましたが、1試合平均得点は若干落ちています。昨季よりマークの厳しさが増し、分析されているという印象はありますか?

前田: 数字が落ちたことは、チームとして得点を取れるオプションが増えたことが影響していると思います。得点を取れる選手が増えたので、試合中、僕にボールに回ってくる機会が減りました。

 

「打ち続けることが仕事」

 

前田悟(まえた・さとる)1997年3月6日、山形県出身。小学1年でバスケを始める。山形南高、青山学院大を経て、2019年、大学4年時に特別指定選手として加入した富山グラウジーズに入団。19-20シーズンは41試合に出場し、1試合平均11.5得点をあげる活躍で最優秀新人賞に選ばれた。身長192cm、体重88kg。ポジションはSF。背番号13。

――攻撃のオプションが増えたことで、マークが分散し、自分がフリーになることは増えましたか?

前田: 相手チームは3ポイントを打たせたくないので、僕のマークが緩くなることはあまりありません。僕がいることで、宇都さんやジュリアンがドライブできるケースも多いと思っています。

 

――自身のスタッツには表れない部分で貢献していると?

前田: そうですね。炎さんは数字に表れない部分もきちんと評価してくれる。ただ僕自身、得点を取らないとリズムに乗れない部分もあります。そこはうまく折り合いをつけながら、チームのためにプレーしていきたい。

 

――リズムに乗るためには、最初のシュートが大事?

前田: 1本入るとホッとします。点が決まり始めると、スイッチが入り、連続で得点を取れるタイプだと思っています。以前は1本を決まった後にずっとボールを触れないと、“今日はタッチがいいのにな”とフラストレーションが溜まることはありました。でも今はチームの勝ちが何よりも大事なので、そういうことも少なくなりましたね。

 

――ご自身が考える武器は?

前田: 一番は3ポイントだと思います。シューターになったのは富山に入ってからです。高校、大学時代は違うポジションだったので、ボールをもらう際の動きなど勉強することはたくさんあります。もっとレベルアップしていきたいですね。

 

――チームメイトのPG阿部友和選手は前田選手のことを「シュートを外しても委縮しない。メンタルが強い」と評しています。

前田: 極端に言えば、シュートを外しても気にしていません。打ち続けることが仕事。そこで委縮して打てなくなるようでは、僕がコートに出る意味はないと思っています。その日、シュートが1本も入らなくても次の日は5本中5本入るかもしれない。そういう気持ちでプレーしています。

 

――シューターとしてのこだわりは?

前田: ファーストシュートは3ポイントを狙っていますが、3ポイントだけに固執しているわけではありません。相手が3ポイントを警戒していたら、内に切り込むという選択肢もある。ピュアシューターというより、いろいろな得点の取り方ができるタイプの選手だと思っています。

 

――現在、チームはCS出場圏内にいます。

前田: 18-19シーズンは特別指定選手としてCSのコートに立つことができましたが、プレータイムは短かった。今度は主力として迎えることができます。チームはハマれば優勝する力を持っている。CSに出ることは最低ラインの目標です。個人としては昨季を上回る数字を残し、3ポイント王を狙いたいですね。

 

――将来的には日本代表入りを視野に入れていますか?

前田: 代表入りを特別意識しているわけではありません。まずはチームのためにプレーすることが大事です。チームと個人がリーグで結果を残すことができれば、代表に呼ばれるようになる。“代表に入りたい”という思いよりも、“勝ちたい”“活躍したい”との気持ちでプレーしています。

 

(写真:©TOYAMA GROUSES)

 

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