自分たちがやりたいことを逆にやられてしまうとダメージは大きくなる。

 まさにそんなシーンだった。

 森保ジャパンのオーストリア遠征第2戦、強豪メキシコとの国際親善試合(日本時間18日、メルクール・アレナ)。後半18分に先制を許した5分後、途中出場の南野拓実がボールを収めたところを挟み撃ちにされて奪われ、クサビのパスから裏に抜け出したイルビング・ロサノに追加点を決められてしまう。痛すぎる1点に、反撃への意欲も吸い取られた。

 

 試合後のフラッシュインタビューで語ったキャプテン吉田麻也の言葉がすべてを物語っていたようにも感じる。

「相手(メキシコ)が自分たちのやりたいことをやっていたなと思います。奪われた後のプレスだったり、ショートカウンターだったりというのは、まさに僕らがやろうとしていること。そこをうまくかいくぐれなかったのが、なかなかリズムをつくれなかった一因かなと思います」

 冷静な口調ながらも悔しさをにじませていた。

 

 前半はまずまずの立ち上がりだった。

 相手のプレスを「うまくかいくぐって」チャンスをつくることができた。ボールをつなぎ切り、奪われた後のプレスも効いていた。いい守備からいい攻撃という森保ジャパンのコンセプトはメキシコ相手にも力強く表現できていた。

 開始15分のチャンスは大きな見せ場になった。柴崎岳からのパスを受け取った原口元気からフリーで待ち受ける鈴木武蔵へ。しかし守護神ギジェルモ・オチョアに阻まれてしまう。日本がチャンスを生み出せたのもボールを引き出し、スムーズな連係を見せる背番号11の働きがあったからだ。ここでしっかりと決め切れていれば大迫勇也の地位を脅かすアピールとなっただけに残念だった。

 後半に入ると1アンカーから2ボランチに切り替えたメキシコは連係のキーマンとなっていた鎌田大地ににらみを利かし、全体のインテンシティを高めて日本の攻撃を分断した。濃霧や日本の戦い方など状況を踏まえ、個の戦いに持ち込んでラウル・ヒメネスのゴールは生まれた。森保一監督がよく用いる“いい守備からいい攻撃”“臨機応変”を、まさにやられてしまった形になった。

 

 キャプテンの吉田はこう続けている。

「(ワールドカップの)ポット2に入りうるチームに勝たないとグループリーグは突破できない。こういうところに勝っていくことを、意識して毎日戦わないといけない。2年という時間は長いようで短いと思うので、どれだけ自分たちが成長できるか、自分たち次第。今日は本当にいい相手とやって自分たちがどこにいるのか、何をしなきゃいけないのか、明確になったんじゃないかと思います」

 メキシコは日本よりも格上。しかしこのクラスに勝っていかなければ“ベスト16超え”など見えてこない。

 危機感は持って然るべきだが、悲観は要らない。

 強い相手と戦うことで学び、成長の材料にしていけばいい。過去のA代表や五輪代表もそうであったように。メキシコから何も学べない勝利よりも、学びどころが満載の敗北のほうが価値は高いはずである。

 

 あのときもメキシコから学ばされた。

 2012年ロンドンオリンピック直前の強化試合では2対1で勝利したものの、準決勝では3ゴールを奪われて完敗した。メキシコはボールをつなぐ攻撃的なスタイルから守備的に切り替えてきた。オーバーエイジ枠で日本のベスト4入りに貢献した徳永悠平の言葉を思い出す。

「もう1回やっても勝てないだろうなって思いました。先制はしたけど、力負け。メキシコは誰もさぼらないし、洗練されていました。大人のサッカーっていう感じでしたね。悔しいけど、技術、体力、オーガナイズどれも日本を上回っていた」

 

 体格的に大きな差はなく、志向するサッカーも共通項は多い。しかしながら「洗練」の差は今なお埋まっていない。

 肌で感じるだけでは十分じゃない。個人の、そしてチームの成長に落とし込まないと意味がない。

 主体的な臨機応変を実現していくには、選手一人ひとりが己と向き合っていかなければならない。

 


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