2020年シーズンのJ1を制したのは川崎フロンターレだった。

 同一シーズンに10連勝、12連勝と最多連勝記録を更新し、4試合残しての最速優勝を達成。勝ち点ではサンフレッチェ広島(2015年)と浦和レッズ(2016年)が記録した歴代最多の「74」を超えた。いやはや圧倒的な強さだった。

 優勝を決めた11月25日のホーム、ガンバ大阪戦。この日のヒーローとなったのがハットトリックを達成した家長昭博だ。ここ2試合はメンバーにも入っていなかったが、11月14日のアウェー、鹿島アントラーズ戦で左足首を痛めていたことを試合後のオンライン会見で鬼木達監督が明かした。

「昨日から(痛み止めの)注射を打ちながらやっているような状況で、ただ彼の男気というか、そういうものに期待して当然使ったわけですけど、それに本当に応えてくれた、と。本当に背中で見せる、結果で見せる選手だなってあらためて敬意を払いますね」

 鬼木監督の後に登場した家長は逆にこう語っている。

「自分がケガして2試合に出られなかった。優勝が決まっていなくてホームでガンバと試合があるとなったときに、監督から『出てもらいたい』という話をされた。選手としてはうれしいですし、その期待に応えたいっていうのはありました」

 指揮官の一言が家長の気持ちを奮い立たせていた。

 

 鬼木監督は現役時代、「川崎の宝」と呼ばれ、クラブOBでもある。ヘッドコーチから昇格した2017年に悲願の初優勝を飾ると翌年には2連覇を達成。昨年こそ4位に終わったものの、これまで準優勝止まりだったルヴァンカップで初優勝を果たしている。勝負強いチームを築き上げてきた。

 今季はアンカーを置く4-3-3システムが見事にハマった。前から連動していくプレッシングとショートカウンターによって攻守で圧倒し、パスワークがより活きる形になった。そればかりでなく5人交代制を利用して豊富なタレントをうまくローテーションし、誰が出てもプレー強度が落ちないようにマネジメントしている。その指揮官の手腕は見事の一言に尽きる。

 ただ鬼木監督の武器は、やはり「言葉」だと思える。

 今季で引退する中村憲剛も会見の席でこのように述べている。

「リーグが再開するときに鬼さんが『こういう(コロナ禍の)ときだからこそ、自分たちで日本サッカーを引っ張っていこう、自分たちで元気、勇気を出してみんなに喜んでもらえるようなサッカーをしよう』と言ってくれた。これでみんな(の心に)もう1回、火がついたところがあったんじゃないかと思います」

 モチベーションを高め、みんなの気持ちをひとつにした。登里享平も中村と同じように、鬼木監督のこの言葉が「チームのなかで大きかった」と口にしている。

 

 なぜ指揮官の言葉が、ここまで選手の心に響くのか。

 以前、鬼木監督に聞いたことがある。

「自分で大切にしているのは、嘘をつかず、ごまかさず、きちんと向き合って……僕の場合、本気の言葉じゃないと選手に伝わらないと思うんですよ。結局それが自分のパワーにもなります。そのためにも選手のことはしっかり見ているという自負はあります。日ごろのトレーニング、全体練習後の自主練習や日ごろの振る舞い……。そういったものをしっかり見たうえで選手選考しています」

 言葉に説得力を持たせるためには、まずもって選手のこと、チームのこと、スタッフのことをしっかり見ていなければならない。真摯に向き合うことで、選手やスタッフとのコミュニケーションを濃密にしてきた。そして選手を本気にさせていくには、自分の本気も示していかなければならない。対戦相手の研究、自チームの分析になると監督室にこもりっきりになる。勝利という結果を積み重ねていくことによって、自分の言葉の説得力を上げていった。

 クラブの庄子春男強化本部本部長は鬼木監督を「血の通った監督」と表現する。

 チームは監督を映す鏡――。確か松本山雅時代の反町康治監督(現在はJFA技術委員長)が語った言葉だと記憶している。

 指揮官の本気度は、チームの本気度につながった。

「血の通う」鬼木達の人情味が比類なきフロンターレの強さを生み出した。


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