(写真:コロナ禍の中、五輪会場と同じお台場で開催された日本トライアスロン選手権)

 その日はスポーツイベントのはしごだった。

 トライアスロンと体操競技、それぞれ来年の東京オリンピック・パラリンピック(東京2020大会)に向けての重要なテストとなるものだ。

 

 11月8日朝、東京2020大会と同じ会場のお台場で開催された日本トライアスロン選手権。

 競技距離を半減し時間を短縮、選手はもちろん、選手に近い関係者の事前検査など管理の徹底を含め、かなり周到な準備をしていた。そもそも競技の距離を半減させるというのは一つ間違えると競技性を変えてしまう可能性もある。もちろん日本選手権史上初めてのこと。逆にとらえると、それだけ競技団体が感染拡大防止を大命題に掲げ、開催しようとしているのだという覚悟が感じられた。

 

 もう一つの課題は観客対策。マラソンや自転車、トライアスロンのような一般公道を使う競技はこれがかなり難しい。会場には入るなとは言えても、路上で歩いている人は止めることができない。つまり自発的に集まってくる観客を完全に規制することなど困難なのだ。

 

 ここが路上競技を開催する際に頭を悩ませるところ。ロンドンマラソンでは、観客が集まらないように完全にコースをガードし、外から見えないようにした。これは短い距離の周回コースだからこそできたものの、なかなか普通の大会が真似をすることは難しい。だいたいが、ツール・ド・フランスのように、観戦自粛を求め、感染者にはマスクの着用と大声での声援を慎んでもらうという呼びかけをするしかない。フランス国内を3週間に渡り3000km移動する本大会は、マスクを路上で配り続け、その数は70万枚だったと聞く。

 

 日本選手権でも、観戦者への注意喚起などかなり念入りに行っており、そのための人員配置や看板などの制作物もかなり目立っていた。そして観戦者の多くはそのマナーを守り、声援の少ないレースとなった。時折興奮のあまり漏れてしまう声援が微笑ましい感じ。野外競技において、これだけの対策であればかなりリスクは軽減できていると思われる。ただ来年の東京2020大会は路上にかなりの観客が来ることが予想されるので、その辺りのさらなる対策が必要になってくるだろう。

 

 大会は皆で作るもの!?

 

(写真:大会における感染予防のテストと言っても過言でないほどの体操競技開催だった)

 午後からはコロナ感染拡大後初の国際大会となる体操のフレンドシップandソリダリティコンペティションが開催された。アメリカ、ロシア、中国の選手やコーチらが来日するということで、東京2020大会組織委員会や東京都、さらには政府関係者やIOCも注目するイベントだった。

 

 それだけに準備は相当念入りで、選手、コーチは来日前から自国で隔離生活、移動にはチャーター機を使用したり、一般機の場合は防護服まで着用した。入国時のPCR検査はもちろんだが、滞在中も毎日検査をする徹底ぶり。さらに滞在はホテルで隔離生活、各国選手団ごとにホテルのフロア以外への移動を規制し、大会会場以外の移動は許されなかった。いわゆる、選手や関係者などを完全隔離する「バブル」と言われる方式で、ツール・ド・フランスや、NBAなどでも使われ効果を出している。運営者も大変だが選手たちにもかなりの負担を要することになるのだが、選手たちは「開催するためには仕方ない」「開催されることが重要」と割り切っているようだった。

 

 また、選手と交わる運営スタッフは制限され、PCR検査を受けなければならず、それ以外のスタッフは近くに寄れないというような会場ゾーンニングもかなり厳格に行われた。まさに来年のシミュレーション。なかには、空気清浄機を仕込んだ選手待機エリアを作ったけど、うまく機能しなかったというエラーもあったようだ。こちらも運営側の本気度をヒシヒシと感じさせてくれるものだった。

 

 観戦者は約半数に絞り、入場時のチェックはもちろん、マスク着用で声援もなしの静かな会場。ちょっと不思議な感じだったが、観客は意識が高く協力的でスムーズ。そこにいる誰もが、「大会を成立させるんだ!」という思いを共有しているように感じられた。

 

 そう、コロナ禍のスポーツイベントは、運営関係者や選手が努力と工夫をするのはもちろんだが、それだけでは感染拡大防止対策は完結しない。観戦者も含めたそこに関与する全ての人の自覚と協力が欠かせない。今回はイベント運営側の準備はもちろん、観客も意識が高かったと思うが、対象が広がった際にこれがどこまで確保できるのか、今後に向けて大きな課題でもあるだろう。

 

「スポーツはプレイヤーだけでなく、観客も一体となって作る」というのは、コロナ以前からも言われていたことだ。まあ目的は少々変わったけれど、それ自体が変わっただけでなく、さらに意識しなければならないということなのか!?

 

 いずれにしても、こうした積み重ねを経て、いわゆる「新様式スポーツイベント」が出来上がっていくのだろう。厳しいながらも、来年への光を垣間見たような週末。個人的には声を出さない応援の難しさともどかしさを初体験の日曜だった!?

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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