1920年のアントワープオリンピックが、スペイン風邪と第1次世界大戦後の混乱で疲弊したヨーロッパで開催されたのは有名な話。

 18年11月に大戦終結。翌19年3月のIOC総会でアントワープが開催地に決まった。つまり、準備期間はわずか1年少々。しかも戦火のひどかったベルギーだ。

 

 だからこそIOCはベルキーで五輪を開催し、世界中で平和の喜びを分かち合おうと考えた。スタジアムはなんとか完成したものの、大会自体は深刻な経費不足、準備不足で大変だったらしい。それでも史上最多29カ国から2668人の選手が参加した。

 

 その後、オリンピックは発展し、特に84年のロサンゼルス大会以降は、肥大化していき、完全な大会が求められるようになっていく。競技運営はもちろん、式典や待遇などすっかりフォーマット化され、それにそぐわないことは許可されず、ハードルだけが上がっていった。

 

 来年の東京大会に対し、「コロナ禍でそれどころではない」という意見はあるが、意外に「選手や国によって不公平が生まれる」「世界の国々が揃わないならやる意味はない」などの批判も少なくない。コロナ禍への対応は当然優先されるべきだが、完全な五輪なんてこれまで夏季冬季合わせて54回(中止は3回)の中で何回あったのか。そんなことが気になり、いろいろ調べていると面白い情報が出てきた。

 

 古代オリンピックは今から約2800年前の紀元前776年にギリシャのオリンピアで始まったと言われている。それが1000年以上に渡り、オリンピアで開催されていたわけで、まだ約120年の歴史の近代オリンピックとは比較にならないほどだ。ここまでは比較的知られていることだ。

 

 それがどうして始まったのか。どうやら当時のギリシャで「疫病」と「内戦」が広まっており、国内は疲弊していたようだ。それを憂いた王が神さまに問いてみると、「お祭りをやれ、それも競技のお祭りを!」と告げられたらしい。つまり、「疫病」と「戦争」から逃れたい、復興したいという意図から古代オリンピックは始まったということである。

 

 古代ギリシャとの共通点

 

 疫病に疲弊し、戦争で人と人がいがみ合い、憎しみ合う分断の社会。 古代ギリシャの話だが、まさに現在の世界情勢とそっくりだ。戦争ではないが、コロナ禍で人間関係も国境も分断され、差別なども露呈してきた。きっと、神様に「この危機を変えるにはどうしたらいいのか」と聞くと、「競技のお祭りを!」と答えるのではないか。

 

 オリンピックはたびたび政治的に使われてきたが、スポーツで人を融和に導いてきたことも事実である。スポーツの前には国境や政治など関係ない。ナショナリズムを煽る報道や、盛り上がりもあるが、それは見方の問題で、根本はその人が速いとか強いということ。そんな技とカラダを努力で作り上げてきた人に賞賛が送られる。

 

 そもそも、2020大会の基本コンセプトは「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承)」の3つだった。

<東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする>

<成熟国家となった日本が、世界にポジティブな変革を促し、それらをレガシーとして未来へ継承していく>

 

 そう、コロナ禍を乗り越え、日本や世界が、進んでいく方向性に合致しているのではないだろうか。これを事前に決めていたのは単に偶然の一致とは思えない。そう、きっと神様のメッセージ!?

 

 混乱を極める新型コロナウイルス感染症への対応。もちろんこの対策を優先させるのは当然のことだ。そして、未来への道のためにオリンピック・パラリンピックはあるのではないか。

 

 現代の「神様のお告げ」が来ることを信じ、選手や関係者は今日も準備に汗を流しているはずだ。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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