日本代表は11月、オーストリア遠征にてパナマ代表、メキシコ代表と親善試合を行いました。結果は前者に1対0の勝利、後者には0対2の敗戦でした。

 

 パナマにはFW南野拓実(リバプール)のPKによる得点で勝利しました。「流れの中からの得点が無かった」という声もありますが、PKを奪取した後半15分のシーンは良かったと思います。MF遠藤航(シュツットガルト)からMF久保建英(ビジャレアル)に鋭い縦パスが入りました。パスを受けた久保は素早く反転し、相手DFラインの裏に左足アウトサイドでスルーパスを供給。これに南野が反応し、ペナルティーエリア内で相手GKのファウルを誘発しました。ビルドアップに意識が行きがちですが、状況を見て手数をかけず相手の裏を取る判断ができていました。

 

 わずか2本のパスで…

 

 少ない手数でゴールを奪う理想形がメキシコ戦で日本が喫した2失点目。わずか2本のパスでDFラインを崩され易々とゴールを許しました。時間を使いパスをつなぐのか、シンプルに裏を狙うのか、強豪国はこの切り換えが秀逸です。日本は基本戦術(ボールをつなぐ場面)と臨機応変な判断(手数をかけず攻める場面)の使い分けが、まだできていないのかなと感じました。コロナ禍において代表活動時間が制限され、連係構築が難しいのは重々承知していますが選手たちには頑張ってもらいたいものです。

 

 上述したかたちで崩されるなど0対2で敗れたメキシコ戦。日本は前半の10分から15分の間に3つほど好機を迎えました。10分、MF鎌田大地(フランクフルト)が左サイド深い位置から折り返しますが、わずかにFW鈴木武蔵(ベールスホット)に合わず。12分には左サイドのMF原口元気(ハノーファー)がカットインから右足ミドルを放つものの相手GKに阻まれました。15分にはMF柴崎岳(レガネス)、原口とつなぎ、最後はゴール前の鈴木がGKと1対1のチャンスを迎えますが、またしてもGKのファインセーブに合いました。

 

 後半に入るとメキシコがギアを上げました。システムも4-3-3から4-2-3-1に変更し、中盤を厚くしました。これに日本は対応しきれなかった。相手が得意のパスサッカーに加え、個人技による突破、素早いカウンターを織り交ぜてきた。日本は、一度、落ち着いて布陣を整えるべきでした。ダブルボランチをしっかり定位置に固定させる。そして、各選手が相手の何番をマークするのか確認する。サッカーは各々が対峙する選手に仕事をさせなければいいわけでしょう? 相手が布陣を変更した時こそ、守備の基本を徹底すべき。そこの確認作業が見られなかったように映りました。

 

 テスト色の強い采配には疑問

 

 この試合に関してもう1点気になることがありました。森保一監督の試合に臨むスタンスです。彼は多くの選手を試したいのでしょう。カードの切り方はテスト要素の強いものでした。個人的にはメキシコという格上相手には全力で勝ちに行く采配で良かったと思います。現段階のベストメンバー、ベストな判断でメキシコ相手に「通用した部分」「通用しなかった部分」をはっきりさせた方が得策だったように感じます。

 

 さて、Jリーグに話を移しましょう。川崎フロンターレが25日、ホームで行われた第29節・ガンバ大阪戦で5対0と勝利し、2年ぶり3度目となるリーグ制覇を達成しました。リーグ戦4試合を残しての優勝は34試合制となった2005年以降、最速の記録。今節の勝利で勝ち点を75とし、J1最多勝ち点数の記録を更新(これまでは15年サンフレッチェ広島、16年浦和レッズの同74が最多)。この勝利で今季24勝目となり、最多勝利数をも更新しました。まさに記録尽くしのリーグ優勝でした。

 

 とはいえ、あと1勝さえすれば優勝が決まる、という状況になってから少しもたついた印象があります。重圧もありますし、対戦相手は「自分たちの試合で優勝は決めさせない」と躍起になってきます。それに加え、タイトルがちらつくと“自分たちとの戦い”が始まります。大一番では「失点は避けたい」など考えがよぎり、消極的なプレーが生まれるのです。通常なら攻撃に枚数を割く場面でも、足を止めてしまったりするもの。いかに普段通りを貫けるかが大事ですね。いやぁ、それにしても今季の川崎Fはずば抜けた強さを披露しています。30試合を消化し、得点は79、失点はわずか25――。選手たちや鹿島アントラーズ時代の後輩・鬼木達監督には心からおめでとうと言いたいです。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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