新型コロナウイルス感染拡大の影響によりスポーツ界のみならず世界中が揺れに揺れた1年となりました。活動停止を余儀なくされ悔しい思いをした選手たちも多かったと思います。一時期は合宿ができなくなり、宿舎の需要はほぼゼロになってしまいました。この1年は今までに経験したことのないものとなりました。時間が経過し、この環境、状況に慣れてしまい感染防止対策を怠ることだけはないようにしたいですね。

 

 下剋上のチャンスだった

 

 明日は第100回天皇杯の決勝戦です。対戦カードはJ1王者・川崎フロンターレ対J12位・ガンバ大阪です。J1勢が意地を見せましたねぇ。今回の天皇杯はコロナの影響により日程がかなり短縮されました。そのためJリーグのクラブからはJ1の1位、2位、J2とJ3の1位クラブのみの参加でした。J1以外の優勝もあるかなと思いました。

 

 プロクラブにとって天皇杯は非常に難しい大会です。下位のカテゴリーのクラブと戦う時の“ひやひや感”といえばいいのでしょうか(苦笑)。ビギナーズラックがあったり、事前の映像分析だけではわからないことがピッチ内で発生します。下位クラブは失うものはない。思い切ってぶつかってくるし「J1相手に一泡吹かせてやろう」と挑んできます。J1クラブが慎重な立ち上がりになるのも頷けます。川崎FもG大阪は特に今回、やりにくかったのではないでしょうか。通常通りの開催が一番望ましいですがポジティブに捉えれば興味深いものでした。明日の決勝戦もいいゲームになることを期待しましょう!

 

 ストライカーを育てる司令塔

 

 12月21日に川崎F・MF中村憲剛の引退セレモニーが等々力陸上競技場で行われました。類まれな視野の広さ、技術、戦術眼に長けた司令塔です。何よりコンビを形成したFWが結果を残していますよね。FW鄭大世、FW大久保嘉人、FW小林悠らに素晴らしい配球をし、ゴールを演出しました。味方が走り出すタイミングを感じ取るのが絶妙です。味方に「オレはこのタイミングでここにパスを出す」とチームメイトに伝えているのも司令塔として長く活躍した理由のひとつだと思います。

 

 対戦相手に彼がいたとしたら、厄介でしょうね。センターバックの僕はマークするFWに裏を取られないこと、そして味方の中盤に指示を出し、中村を消すしかない。僕のテリトリーにボールが来ないようにパスを出させる方向を限定させます。まるで僕がサボっているみたいですが(笑)。僕のマークの相手はエース級センターフォワードです。ここのホットラインを潰すためには味方の中盤の協力が必要不可欠。中村にマンマークを付けるとこちらの人数もひとり減るに近い状況になってしまう。彼を深追いすると他のスペースが空いてしまうからあまり得策ではない気がします。何にせよ、ボールを持たなくてもこれだけ考えさせられるのですからいやらしい選手です。明日の天皇杯決勝も楽しみですね。

 

 読者の皆様、今年も僕のコラムにお付き合いいただき、誠にありがとうございました。今年はコロナに翻弄された1年でした。引き続き、皆様も感染対策を怠らず、くれぐれもご自愛ください。僕は皆様に来年このコラムを楽しんで読んでいただけるようにがんばります。それでは、良いお年をお迎えください。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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