コロナ禍にある2020年のJリーグもいよいよフィナーレを迎える。

 J1は川崎フロンターレが4試合残しての史上最速優勝を果たし、J2からの昇格は徳島ヴォルティスとアビスパ福岡に決定した。J3は既にブラウブリッツ秋田が優勝とJ2昇格を決めているが、昇格のもう1枠は20日の最終節までもつれ込むことになった。AC長野パルセイロ、SC相模原、FC岐阜の3チームが可能性を残しているが、実質的には勝ち点1差にある長野と相模原の争いとなる。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大によって4月に緊急事態宣言が政府から発出され、Jリーグもストップした。再び動き出す際も「シーズンが本当に成立するのだろうか」と不安を持ったサッカーファンも多かったに違いない。まだ残り1試合あるとはいえ、全クラブが全試合を消化できそうだ。Jリーグ、クラブ、選手、スタッフ、関係者の努力、ファン、サポーターの協力があったからこそ。Jリーグに携わってきたすべての人に敬意を表したい。

 ちょっと気は早いが、2021年の話題に触れたい。

 Jリーグは延期していたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)を来季から導入することを発表した。来季はJ1の全380試合(20チーム制)やYBCルヴァンカップ・プライムステージ、スーパーカップが対象となる。

 VARの採用は世界の潮流に沿ったものであり、歓迎したい。しかし欧州を見ていると、運用面でいろいろと問題が起こっているのも事実。今一度、VARの原理原則を押さえておきたい。

 

 13日に行なわれたACL準決勝、蔚山現代とヴィッセル神戸の一戦。

 1-0で迎えた後半30分、安井拓也が相手からボールを奪い取ってカウンターとなり、古橋亨梧、ドウグラスがつないで安井がシュート。GKが弾いたボールを途中出場の佐々木大樹が押し込んで追加点を挙げたかに見えた。

 しかしここにVARが介入してナワフ・シュクララ主審は映像でプレーを確認する「オン・フィールド・レビュー」後に、ノーゴールとした。安井がボールを奪ったシーンをファウルと判断したのだ。

 確かに映像では安井の足がボールではなく相手の足に当たっているように見えるし、ファウルと捉えるレフェリーだっているだろう。しかし一連のプレーを「流れ」で見た場合に「あっ、安井のファウルだ」と判断するレフェリーはどこまでいるのか。接触後に相手が倒れているわけでもない。

 

 このシーンを見て、昨夏のコパ・アメリカでのジャッジを検証したDAZN「Jリーグジャッジリプレイ」でJFA審判委員会のレイモンド・オリバーさんが語っていたことを思い出した。

「(VARにおいて)大事なことは正しい判定を導くために使っているのではなく、主審が明らかなミスをしたのかどうかをチェックするためのもの。そうでなければ逐一ゲームを止めなければならなくなってしまう」

 そうなのだ。このシステムはすべて正しい判定に導くためのものではない。IFAB(国際サッカー評議会)の競技規則には<主審は、次に関する「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」の状況に限り、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)から援助を得ることができる>と記されている。①得点かどうか②PKかどうか③退場かどうか④警告退場の人間違い、この4事象において主審の明らかなミスをチェックするためのものだ。

 

 安井が相手の足を蹴ったとされるシーンを振り返ってみても、後方で見ていた主審はファウルと判断せずに流している。周りの選手たちがファウルをアピールしているようにも見えない。「主審が明らかなミスをした」とは言い難いケース。つまりはVARが介入するレベルではないと考えるのが自然である。

 世界各国でもVARの問題がたびたび起こっているのは、大きな石(明らかなミス)を拾い上げるだけにとどまらず、小さな石(明らかではないミス)までチェックしようとしているところに原因があるように感じる。

 VARはあまり出しゃばらないというのが大前提。Jリーグが来季から導入するにあたって、審判団、クラブ、選手そしてファンもここはもう一度、認識しておかなければならない。VARはあくまでも「アシスタント」の立場に過ぎないということを――。


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