2月中旬にルイジアナ州のニューオリンズで行なわれた今年のNBAオールスターゲームは、予想された以上の素晴らしい盛り上がりをみせた。
まずは土曜日のスラムダンク・コンテストで、新鋭ドワイト・ハワードが渾身の大技を連発して新王者に就任。さらに日曜日のオールスター本戦でも、ワンサイドゲームに終わりがちな例年とは一線を画す熱戦が展開されて満員の観客を熱狂させた。
(写真:2年半前は悲鳴に溢れた街が、NBAのスターたちの来襲と共に歓声に包まれた)
 アメリカ南東部を襲った「ハリケーン・カトリーナ」の恐怖から、もう2年半――。
 その被害の中心地・ニューオリンズでの開催となったオールスターゲームは、NBAの繁栄を誇示するだけでなく、街の復旧に貢献するという重要な使命を帯びていた。普段は傲慢さも目立つスター選手たちからも、この週末中は少しでも人々の気持ちを高揚させようという気持ちが感じられたのは事実である。それゆえに、2008年のオールスターゲームは大成功に終わった。
 ややダーティなイメージが根付いていたリーグにとって、このオールスター週末が成功したことの意味は大きかったと言える。アメリカ中の多くのスポーツファンが、NBAの魅力に改めて気付いたことは間違いないからだ。

(写真:全米のアリーナを熱狂させるプレーオフの季節がもうすぐやってくる)
 そして近年にない活気に満ちているのはオールスター週末だけの話ではない。波瀾万丈、群雄割拠の今季のNBAシーズンは、序盤戦から近年最高と言われる盛り上がりを見せている。
 開幕前に大補強を展開した古豪ボストン・セルティックスは、ケビン・ガーネット、レイ・アレン、ポール・ピアースという「ビッグスリー」を軸に前半から突っ走った。続くデトロイト・ピストンズ、クリーブランド・キャブスも体勢を整えていて、イースタンカンファレンスでは今後この3強を中心とした激しい覇権争いが繰り広げられそうだ。
 一方のウエスタンカンファレンスは史上空前の大混戦となっている。シーズン50勝以上(全82試合)のペースで勝ち続ける9つの強豪チームが、プレーオフの8つの座席を巡りつばぜり合いを展開中だ。

 1位から9位までわずか6.5ゲーム差。現在上位シードが獲得できる4位以内に入っているチームでも、3、4連敗すればプレーオフ圏外に転落する恐れすらある。今季に史上最高勝率でのプレーオフ逸チームが誕生するのはすでに確実。人呼んで「歴史に残るハイレベル・カンファレンス」の行方は、米スポーツファンの間で大きな話題を呼んでいる。
 そしてこの混戦から抜け出すために、今シーズン中にフェニックス・サンズはシャキール・オニール、ロサンジェルス・レイカーズはポウ・ガソル、ダラス・マーベリックスがジェイソン・キッドを獲得するなど、多くの強豪が大トレードを敢行した。ギャンブル性の強い移籍劇も多く、これらのトレードでどのチームが最も特をするのかまったく読めない状況。こういった波乱の人事も、今季に彩りを添えてくれた重要な要素だった。

(写真:地元ニューオリンズ・ホーネッツのスターPGクリス・ポールもオールスター週末を盛り上げた功労者)
 その他にも、超人的な活躍を続けるコービー・ブライアント(レイカーズ)とレブロン・ジェームス(キャブス)の「リーグNO.1選手争い」という興味もある。小柄な身体で大男たちをコントロールする新世代の司令塔クリス・ポール(ホーネッツ)の進撃がどこまで続くのかも楽しみである。ダンク王獲得と共に現代最高のビッグマンとして名乗りを挙げたドワイト・ハワード(マジック)の果てしない成長振りを眺めるのも楽しい。
 総合的に見て、新旧スターが入り交じり、魅力的なストーリーに溢れた今季は、過去15年で最高のNBAシーズンであると言って良い。

 そして、4月より待望のプレーオフが始まる。
 LA対ボストンのノスタルジックな「夢のファイナル」は実現するのか、サンアントニオ・スパーズがフランチャイズ史上初の連覇を達成するのか、あるいは「選ばれし男」レブロン・ジェームスが入団5年目にしてついに頂点に立つのか・・・・・・楽しみは尽きない。
 だがプレーオフがどんな結果に終わろうと、07〜08年シーズンは紛れもなくポジティブな意味でNBAの歴史に刻まれて行くことだろう。
 偉大なるマイケル・ジョーダンの亡霊に取り付かれた過去10年余、NBAはなかなか次の段階に進めなかった。新スターが現れればすぐに「ネクスト・ジョーダン」の称号が貼付けられ、誰もがその期待に答えられぬまま消沈して行った。
 しかし、レブロン、ポール、ハワード、ドウェイン・ウェイド、ブランドン・ロイ、クリス・ボッシュ、デロン・ウィリアムスといった現代のニュースターたちは、そんな過去の呪縛などに負けないたくましさを感じさせる。下手にバッドボーイ振るのではなく、かといって新世代キッズを気取るのでもない。素顔のままの魅力で、オリジナルな新時代を切り開く。
 そして、そんな彼らが中心となって成功させた今季オールスターゲームには特別に重要な意味があった。傷ついた街の復旧への貢献は、同時にしばらく低迷していたリーグの人気回復の助けにもなったのである。

(写真:アレン・アイバーソン(右)、カーメロ・アンソニー(左)も今季は好調なプレーを続けている)
 さらに言えば、このNBAにとってエポックメイキングな年に、レギュラーシーズンがジョーダン引退以降では最高の活況を呈していることも偶然であるはずがない。未だ全盛期に近いケビン・ガーネット、コービー・ブライアント、アレン・アイバーソンらの旧スターたちと、前述した新世代のヒーローたちが素晴らしいタイミングで邂逅した今季、NBAは再びの隆盛へ第一歩を踏み出したのだ。
 ボストンに、ロスアンジェルスに、ニューオリンズの地に、すでに新たな足跡は刻まれている。そして、もうすぐ全米で始まるプレーオフで、新時代の前触れがさらに本格的なうねりに変わりそうな予感が漂ってくる。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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