(写真:人気の根強い箱根駅伝は変われるのか!?)

 コロナ禍で世の中は大きく変化を強いられている。
 働き方、生活スタイル、人生の価値観まで、好む好まざるではなく強制的に変わっている。しかし、この変化は全く前兆がなかったわけではなく、コロナがなくとも少しずつ変化を見せていたこと。それがコロナ禍により急激に加速し、混乱を生んでいるが、チャンスととらえる人も少なくない。そう、変化の時は変革の時。バージョンアップするチャンスかもしれないのだ。

 

 この考え方でいくと、コロナ禍で仕方なく始まった変化を上手く味方につけたスポーツは、コロナ禍が終わってもさらに盛り上がるのかもしれない。運営、見せ方、競技ルールまで。不便が生じている現状も、新しいスタイルを模索するきっかけとなり得る。

 

 一方、変わらないことを伝統として大切にする文化もある。何十年、何百年変わってないからこそ意味があり、受け継がれていく。これはこれで大きな意味があるだろう。

 

 しかし、昨今のスポーツはそれでは生き残れない時代になってきた。五輪に残ること、TV中継にマッチすることが重要視され、見せ方の工夫はもちろん、競技のルールや時間、用具規定まで変更している競技は多い。フェンシング、バレー、柔道、ラグビー、バスケット、ゴルフ、野球と並べだすときりがない。それくらい考えていかないと、数十年後にそのスポーツが世界中で行われているかを保証するものはない。各競技団体の苦悩が見え隠れする。

 

 さて、日本のお正月はスポーツ三昧。沢山のスポーツ中継のおかげで、自粛正月でも時間を持て余すことがなかったのは有難い。中でも高視聴率を稼いでいるが箱根駅伝。競技レベルとしては前日に行われる実業団のニューイヤー駅伝の方が高いのだが、「箱根」は「甲子園」と同じく魔法の言葉で、見るものを引き付ける。今年は沿道での観戦制限もあり、視聴率は往路31%、復路33.7%と素晴らしい数字を叩き出し、あらためて箱根人気を印象付けた。

 

 私ももちろんその一人で、なんだかんだとTVから離れられず、家族に不平を言われた。優勝争いが最後までもつれ、復路がここまで混戦だったのは久しぶりだったのも一役買っている。それを見ながらいつもの疑問が湧いた。「どうして関東駅伝なのか……」。

 

 オープン化、女子の部創設を

 

 成り立ちが関東学生駅伝とはいえ、これだけの注目度と影響がある大会なら、どうして全国学生駅伝にしないのか。全国大会は別に作られているが、注目度の差は語るまでもない。ということは中長距離の選手であるなら、関東の大学以外はどうしても魅力に欠けてしまう。それに負けないコンテンツなどそう簡単に作れるわけもなく、関東の大学に選手が集中するのを他の地域の大学は恨めしそうに見るしかない。

 

 また、ここまで駅伝として盛り上がるなら、女子の部も作ればいいのではないか。様々な場面で男女格差がかなりなくなってきたこの時代、なぜ箱根は男子のモノなのか。女子の中長距離の選手も数多くいるが、大学駅伝にそこまでの魅力がないので高校卒業からすぐに実業団という選手が多いのも現実。女子大学駅伝をもっと盛り上げようなんて発想はないのか。

 

 運営面で見ると、スタートとゴールが大手町でいいのかというのもある。あそこは場所的に狭く、観戦者や選手、関係者にとっても不便なところ。たとえば国立競技場や東京ドームなどにすれば、双方にとって快適になるだろう。

 

 人気上昇で沿道の観戦が盛り上がる反面、地域にその恩恵が享受されていないのも事実。お正月の箱根はもともと人気があるが、駅伝の関係で1年前から多くの予約が入る。つまり観戦客が来ることでの本来見込める観光客が減らさざる得ない面もあるし、開催による地元への負荷も小さくない。結果的に町の財政が追い付かず、道路整備が進まない箱根の登りは側道が細いままである。以前には選手が練習中にはねられて亡くなったという痛ましい事故もあったにもかかわらずだ。ランナーやサイクリスト、そこに乗用車や大型バスが行き交う危険な状態がいまだ改善されていない。これだけ大きなお金と人が動くのであれば、もう少し沿道の町にも配慮があってもいいと思うのだが……。

 

 近年、青山学院大の原晋監督なども発言しているが、監督会議のような正式の場での発言はほとんどないようで、学連は全く動く気配はない。東海大の両角速監督も、出場校への支援体制、スタートゴール位置の変更などを訴えたこともあったが、これだけ成功モデルになると、変更することができなくなっているというのもあるのだろう。

 

 もともと箱根駅伝は、金栗四三が日本の長距離ランナーを強くするために作ったもの。その原点に返るならば、今の形を維持することよりも、より強化や普及につながるような大会にしていくことの方が大切ではないかと思うが、人は変化することに最もエネルギーを要する。それが成功している場合はなおさらだ。

 

 陸上界にも、現社会のように強制力のあることや、変わらざるを得ないことが起こらなければ変わることはないのだろう。
 不謹慎かもしれないが、少しそんなことを考え、今年のお正月は終わった。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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