敵もさるもの、ワクチンの開発に合わせるかのように姿形を変えてきた。クリスマスを前に英国では新型コロナウイルスの変異種が急拡大している。英政府は従来種に比べ、最大で感染力が7割強との分析結果を公表している。「ウイルスが攻撃方法を変えれば、我々も防御方法を変えねばならない」とは3月に一度感染したボリス・ジョンソン首相。ウイルスとのイタチごっこに勝利するのは容易ではない。

 

 すぐさま欧州のいくつかの国が入国規制に乗り出した。水際で変異種を食い止めようというわけだ。日本政府はどうするのか。

 

 厚労省の報告によると、空港検疫での陽性者数は3月時点で日本国籍60名、外国籍6名と低水準だった。それが11月には日本国籍128名、外国籍225名と急増している。検査の網目をすり抜けて入国した者はいなかったか心配になる。

 

 外国人の入国者も増え続けている。日本政府観光局の報告によると9月には約1万3700人だったが10月は約2万7400人、11月は約5万6700人と倍々ゲームで増えている。11月以降、中国や韓国など11カ国・地域の入国者については感染症危険情報レベルが引き下げられたことなどを理由に、空港での検査が不要になった。

 

 政府がこうした漸次的入国緩和策の先に来年夏の東京五輪パラリンピックを見据えているのは自明だ。この11月には、大会開催をにらみ、外国人観客に対する待機(14日間)免除、公共交通機関の使用許可が検討されていることが明らかになった。

 

 これを受け、ある競技団体の幹部は渋い表情でこう語った。「大会の開催に賛成の人たちからも“外国からウイルスを持ちこまれては困る”という声が上がっている。海外のニュースを見ていても、外国ではマスクをつけない人が多い。そういう人たちが大人数で電車やバスに乗り込んできたら、日本人はどう思うか。(政府の)前のめりの姿勢が、逆に開催の気運をしぼませている」

 

 体操の内村航平は言った。「できない、ではなく、どうしたらできるかを皆さんで考え、できる方向に変えてほしい」。概ね首肯する。ただし、そのためには「どうすれば国民の理解を得られるか」という地道な作業が欠かせない。コロナを乗り越えた「人類の団結の証」も結構だが、その前に「国民の団結」だろう。前のめりは危うい。

 

<この原稿は20年12月23日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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