東北楽天は今オフの契約更改の席上で、全選手に対し収支など今季の球団経営の実態を開示しました。言うまでもなくコロナ禍による苦しい台所事情を選手を含め、球団全体で共有するのが狙いです。

 

 周知のとおり今季のプロ野球は6月19日の開幕から無観客で行われました。7月10日から最大5000人の有観客開催が可能となり、9月12日から入場者の上限は収容人数の50%にまで緩和されました。この入場制限および試合数の減少(120試合制)により、今季のプロ野球の観客動員数は昨季を大きく下回りました。


 セ・リーグは275万4626人、パ・リーグは206万8952人で、昨季と比べセは81%、パは82%の減少でした。各球団の観客動員数は以下のとおりです。

 

◎2020年観客動員数と1試合平均
◎セ・リーグ
巨人 49万2526人 8209人
横浜DeNA 46万7700人 7795人
阪神 51万7944人 8632人
広島 53万7857人 8964人
中日 37万8006人 6300人
東京ヤクルト 36万593人 6010人

 

◎パ・リーグ
埼玉西武 30万120人 5002人
福岡ソフトバンク 53万2723人 8879人
東北楽天 23万6084人 3935人
千葉ロッテ 38万9995人 6500人
北海道日本ハム 27万6471人 4608人
オリックス 33万3559人 5559人

 

 昨季からの大幅な減少により「数十億円単位の赤字になる見通し」(千葉ロッテ・河合克美オーナー代行兼球団社長)、「数十億円の赤字の見通し」(東北楽天・安部井寛チーム統括本部長)と、まさにコロナショックです。

 

 さて、無観客や入場制限下の開催は選手にとっても初めての経験でした。多くの選手が「応援があるといつも以上の力が出ることがわかった」「満員の球場を知っていると、そのときと同じ気持ちに持っていくことは無観客だと難しい」と口にしていました。反対に「無観客で精神的に弱い選手、いわゆるビビリは例年以上の活躍が期待できるんじゃないか」と語っていた関係者もいます。

 

 大観衆、そしてその応援が選手に与える影響はどれほどなのでしょう。元巨人、西武などでプレーした鈴木康友さんは以前、こう語っていました。

 

「ある程度、ざわざわしている方が選手としてはやりやすいんですよ。引退後、マスターズリーグに出たときは、お客さんが"昔の誰々が出てきた"と、固唾を呑んで見守る雰囲気で、球場はシーンと静かでした。逆にあのときの方が緊張しましたね。シーンとした無観客試合は選手としてはやりにくかったんじゃないでしょうか」

 

 さらには現役時代のこんな思い出も。
「甲子園の阪神戦に初めて出場したときのことです。昔も巨人阪神戦は大入りでしたし、甲子園のお客さんは今も昔もにぎやか(笑)です。"これは、野球する雰囲気ちゃうぞ"と思ったもんです。阪神のチャンスになれば、それこそ地鳴りみたいな応援でしたから。その巨神戦で初めてプレーしたときのことです。後半に守備で出ていったんですが、川藤幸三さんのショートゴロをトンネルしてしまったんですね。なんかワーワー、ワーワーという大歓声で浮足立ってしまったんでしょう。阪神側から見れば観客が後押ししたプレーでしたね」

 

 もうひとり大観衆の"パワー"を実感したというのが坂克彦さんです。坂さんは2006年、東北楽天から阪神にトレードで入団しました。06年当時、阪神の観客動員数は年間約315万人。ここ15年では最多の動員数です。

 

「甲子園のお客さんの声援はハンパなかったですね。そしてヤジも(笑)」

 

 坂さんは懐かしそうに振り返ります。
「甲子園のお客さんというのはいいプレーにはやんややんやの大喝采。でも、悪かったら容赦ありません。ときにはグサリと来るようなヤジも飛んできました。今、思い出しても甲子園の5万人の声援というのは身震いがするほどでした。当然、力になりましたよ。まあ、その分、5万人のため息も経験していますけどね(笑)。あれは本当に"ガクーッ"とくるものです。でも、大歓声にビビるのもダメですし、少々のヤジや潰れるような選手はプロでは上にいけませんよ。あんまりキツいのはダメですけど、愛のあるダメ出しのようなヤジはありだと思います」

 

 ウィズコロナの今季、収容人数の50%まで上限は引き上げられましたが、鳴り物や大声での声援は制限されたままでした。来季は球場に大歓声が戻ってくることを願っています。

 

(文・まとめ/SC編集部・西崎)


◎バックナンバーはこちらから