第166回 オフ・ザ・ボールを若い世代に伝授して!
Jリーグのジュビロ磐田、ガンバ大阪、鹿島アントラーズの指導者人事がおもしろいですね。ゴンこと中山雅史が磐田トップチームコーチ、大黒将司がG大阪アカデミーのストライカーコーチ、柳沢敦が鹿島ユースの監督に就任しました。3人とも日本を代表するFWで、ボールを受ける前の動きに長けた選手でしたね。彼らにはぜひ、得点を量産するストライカーを育成してもらいたいものです。
ゴンのイメージは……
大黒のストライカーコーチという役職は興味深いです。FWに特化した専門職なのでしょうね。彼はボールを受ける前の動きが非常に巧みな選手でした。論理的に考え、うまくDFのマークを外し、たくさんのゴールを決めている印象が強いです。
僕は現役時代、ゴンとのマッチアップを経験しています。世間的には前線からのプレスなど運動量が豊富なイメージがあるでしょうが、ゴンは常に走っているわけではないんです。どちらかと言うと、一瞬の動きに秀でているタイプでした。ペナルティーエリア内では前に出るふりをして止まったり、僕の視界から消えてからニアに飛び込んできたり……。すごく厄介なストライカーでした。泥臭くボールに飛び込む姿が似合っていましたが、飛び込む前の動きは頭を使ってかなり駆け引きを仕掛けてくるタイプでしたよ。
プレーの言語化
ゴンも大黒も自分のノウハウをきちんと言葉にできるはず。選手たちにわかりやすく教えることも可能だと思います。今の時代はプレー映像を容易に見られます。映像を用いながらストライカーとしてどう相手DFの視界から消えるのか、どのタイミングで、どこのスペースに走り込めば得点機会を作れるのかなどを若い選手たちに伝授してもらいたい。磐田やG大阪から日本の将来を背負う頼もしいストライカーが出現することを楽しみにしましょう。
日本を代表するFWのひとりだったヤナギ(柳沢)がユース監督としてアントラーズに復帰しました。彼もオフ・ザ・ボールに長けていた。ヤナギの動き出しは一級品でした。少し膨らむように動くだけでパサーに多くの選択肢を与えます。今後、アントラーズユースから動き出しに長けたFWが出てくるか楽しみです。ヤナギはまだ若いから実演もできると思います。選手たちは元日本代表レジェンドから数多くのものを吸収して欲しいですね。
僕も投げていたロングスロー
高校サッカー選手権はコロナの影響で、大会途中から無観客にはなったものの何とか全日程を消化できました。近年、高校サッカーでロングスローを多用するチームが目立ちます。メディアでも賛否両論ありますが、僕はロングスローに賛成派です。僕自身、現役時代にロングスローを投げていたから(笑)というのもありますが、使える武器はシンプルに使った方がいいと思います。ライナー性のボールを遠くに投げるには腹筋と背筋が強く、かつ肩甲骨周りの柔軟性が大事になってきます。
来年度はロングスローがどう進化するか見物ですね。ロングスローのたびにDFを前線にあげますから守備側のチームが前線に3人くらい残すのも、駆け引きとしてアリだと思います。考えようによっては、ロングスローはピンチでもありますがカウンターを仕掛けるチャンスとも捉えることができます。前線にカウンター要員を残すチームが出てくると高校サッカーもさらに変化するでしょう。「青春、感動」が売りの感がある高校サッカーですが、駆け引きの要素が加味されて、益々面白くなっていくのだろうなと感じました。
●大野俊三(おおの・しゅんぞう)
<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。
*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。