(写真:試合後、判定が覆ることとなったシバターのアームバー ⓒRIZIN FF)

 大晦日から少し時間が経ったが、いまだ気になっている。

 HIROYAは本当にタップをしていたのだろうか? 結果が覆されてよかったのだろうか?

 

 12月31日、さいたまスーパーアリーナで開催された『RIZIN.26』第3試合、シバターvs.HIROYAのことである。

 

 炎上系YouTuberであり、プロレス、格闘技の経験もあるシバターのRIZIN初参戦。当日まで伏せられていた対戦相手は元K-1ファイター、HIROYAだった。

 

 試合は3分×2ラウンド。1ラウンドはキックボクシングルール、2ラウンドはMMA(総合格闘技)ルール。2ラウンドで決着がつかなかった場合の判定はなく、引き分けとなる取り決めだった。

 

 体重はシバターが92.6キロ、HIROYA74.8キロ。実に17.8キロ差があるのだが、それでも大方のファンはキャリアで優るHIROYAの秒殺を疑っていなかった。

 

 1ラウンド目はキックボクシングルールだ。ここでHIROYAのパンチを喰らったシバターが戦意を喪失するだろうと。

 

 だが、そうはならなかった。

 

 人を小馬鹿にしたようなステップを踏みながらHIROYAと互角に渡り合い、そして終盤には、なんと右のパンチでダウンも奪う。シバターは3分間を凌ぎ切った。そしてMMAルールでの2ラウンド、開始から30秒の辺りで寝業に持ち込むとアームバーを仕掛けたのだ。後に問題となるこの場面だが、HIROYAは腕を決められることなくエスケープ。両者は6分間を闘い終えた。

 

 そして一度は、判定無しのルールに基づきドローとなる。

 しかし、その後にHIROYAがタップしていたとして「2ラウンド38秒、腕ひしぎ十字固めでシバターの勝利」と結果が覆された。

 

 この場面、HIROYAは本当にギブアップの意思表示をしていたのだろうか?

 

 試合の中で、HIROYAがタップをしたように見えた場面は確かにあった。

 だが続行され、その後に彼は右腕を抜き逃れている。やはり決まってはいなかった……多くの人は、そう観ていたはずだ。

 

 私も同様である。だから、結果を変更するアナウンスがアリーナ内に流れた時には驚いた。

 

 タップには見えない

 

 除夜の鐘が打たれ、仕事場に戻った後、試合映像を再生する。

 

 フジテレビのカメラはリングの真上に備えられていて、攻防がハッキリと見える。シバターがアームバーを決めようとし、HIROYAは「さて、ここからどうやって逃れればいいのか」と迷った感じでもがく。この時、動きの中で彼の左手がシバターの左脚に触れている。

 

 おそらくは抗議を受けた審判団は後に映像を見直し、この場面で「タップがあった」とみなしたのだろう。

 

 だが、どうだろうか。確かにHIROYAは、紛らわしい手の動きをしている。それでも私にはタップをしているようには見えない。何度も何度もスローで再生してみたが、その判断は変わらなかった。

 

「腕は痛くなかったですよ。決まっていませんでした。タップは絶対にしていません」

 試合結果が覆された後に、HIROYAは、そう話していた。

 

 また、映像を観て改めて分かるのは、あの場面、レフェリーがHIROYAの左手の動きをハッキリと見ていること。死角にはなっておらず、目の前での行為だったのだ。それをレフェリーは「タップはしていない」と判断し試合を続行している。

 

 フジテレビの放送を録画していたら、是非もう一度見直してもらいたいと思う。また、YouTubeにも試合映像がアップされているだろう。あなたは、どう判断するだろうか。HIROYAが紛らわしい動きをしたのだから、タップとみなされても仕方がない、という意見もある。だが実際には「タップはなかった」と私は見ている。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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