元日の天皇杯決勝。ヒヤヒヤというかハラハラというか。

 

「出るの? 出ないの? てか、これじゃ出せないかも……」

 

 本人は出たかっただろうし、監督も出したかっただろう。ただ、花道を用意するにはあまりにも状況が緊迫していた。結局、中村憲剛はピッチに立てないまま、最後の試合を終えた。

 

 凄いな、と思ったのは、画面に映し出される中村の態度に、表情に、不満の気配が微塵もなかったこと。仮に苦笑の一つでも浮かべていようものなら、ファンの怒りが鬼木監督の采配に向けられた可能性もあった。川崎Fにとって、彼はそれぐらい特別な選手だった。

 

 でも、笑顔と涙で優勝を喜ぶ中村の姿をみて痛感した。彼にとっての川崎Fは、最後の花道を飾れなかったことなんかどうでもいいと思えるぐらい、特別な存在だったのだ。

 

 駒沢大の歴史的大逆転で幕を閉じた箱根駅伝。例年にも増して見応えのある大会だったけれど、優勝タイムは昨年に比べると大幅に遅くなっていた。別次元の走りに見えた復路の青学大でさえ、タイムは昨年の復路優勝・東海大より2分近く遅かった。で、思ったこと。

 

 厚底は声援に如かず。

 

 ナイキが革新的なソールを開発してからというもの、駅伝やマラソンのタイムは縮んでいく一方だった。もちろん、今年のシューズも確実に進化はしていたはず。なのにタイムが大幅に落ち込んだということは、とてつもない武器に思えた厚底シューズも、背中を押してくれる沿道の声援には及ばないということかな、と。

 

 そう考えると、気の毒でならないのが高校サッカーと高校ラグビー。選手によっては生涯最初で最後になるかもしれないひのき舞台は、えらく殺風景で無機質なものに変じてしまった。

 

 応援の力をダイレクトに受ける競技が、その力なしで戦わなければならない理不尽。プロのサッカーや大学のラグビーが万単位の観衆を集めて行われているのが、よりモヤモヤ感を募らせる。下々の者には自粛を要請していながら、自分たちは特別だからとばかりに夜の会合を繰り返す、日本社会の縮図を見せつけられるようで。

 

 モヤモヤといえば、天皇杯の川崎Fを見ていても感じたことがあった。これほど強い、往年の磐田や鹿島にもまったくヒケを取らないどころか、おそらくはJリーグ史上最強と思われるチームに、日本代表は何人いるのだろうか、と。

 

 磐田や鹿島が強かったのは、日本代表の中核となる選手を何人も擁していたからだった。言い方を変えれば、Jで結果を出すことが代表入りへの最短距離だった。だが、いまの川崎Fは、どれほどの強さを見せつけても、その先に日本代表という道がない。川崎Fで大黒柱になるより、欧州の無名クラブでプレーした方が日本代表になりやすいという現在の状況は、長い目で見て、Jリーグを滅ぼしかねない。

 

 そこで提案。ここまでリーグと代表の関係が粗になってしまった以上、Jリーグの復権をかけたテストマッチを見てみたい。

 

 日本代表対Jリーグ選抜。

 

 そんなもん代表が圧勝する、と言い切れる関係者、はて、どれだけいることやら。

 

 というわけで皆々さま、今年もよろしくお願いします。

 

<この原稿は21年1月7日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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