ここ10年の日本シリーズの戦績はパ・リーグの9勝に対し、セ・リーグは1勝。2019年、20年と2年連続で巨人が福岡ソフトバンクに4連敗を喫したことにより、広がる一方の“リーグ間格差”に注目が集まっている。

 

 

 格差の原因は何か。19年の日本シリーズでソフトバンクに敗れた直後、巨人・原辰徳監督が口にしたのは「DH制の有無」だった。

 

 メジャーリーグのアメリカン・リーグから遅れること2年、1975年にパ・リーグはセ・リーグとの人気格差を是正することを理由にDH制を導入した。華々しい打撃戦の増加が集客につながると考えたのである。

 

 ところで、これまでセ・リーグはDH制をなかば邪道視していた。「投げて打って走るのが野球。打つだけの選手を認める制度には与したくない」。こう語る球団幹部もいた程だ。

 

 それが今になって「セにもDH制を」と原が言い出した背景には、DH制がもたらした野球の質的変化があげられる。本来、最も打力の劣るピッチャーに代わってチーム屈指の強打者が打線に名を連ねるDH制は、相手ピッチャーにとっては厄介極まりない。

 

 だが逆もまた真なりで、強打者を日々相手にすることにより、自ずと腕は上がる。それが“パ高セ低”の一因になっていると原は力説するのである。

 

 確かに原の指摘は一理ある。野茂英雄、伊良部秀輝、松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大、大谷翔平などメジャーリーグでも活躍した、あるいは活躍するパワーピッチャーの多くがパ・リーグの出身だ。

 

 しかし、セ・リーグのDH制導入が、“パ高セ低”にストップをかける保証はどこにもない。

 

 メジャーリーグを見てみよう。ここ10年のワールドシリーズの戦績は、アメリカン・リーグ4勝、ナショナル・リーグ6勝。DH制のないナ・リーグ(20年はコロナ特例でDH制)がリードしているのである。

 

 スポニチ紙の報道によると、セ・リーグのDH制導入に関し、選手会の「9割超」が賛成していることが明らかになった。「投手の負担軽減」に加え、「国際試合への慣れ」を賛成の理由にあげる者もいたという。

 

 一方、慎重派の中には、「両リーグの独自性」を持ち出す者が少なくない。メジャーリーグがそうであるように、2リーグ制を敷く以上は、2つのルールが存在していた方がおもしろい。パ・リーグの豪快な野球を好む者がいれば、セ・リーグの緻密な野球を支持する者がいてもいいのではないか--。これはこれで説得力がある。

 

 さる12月14日、巨人はセ・リーグ理事会に来季の「DH制暫定導入検討のお願い」と題する提案書を提出した。しかし、他球団の反対により、これは見送られてしまった。

 

 何か巨人のひとり相撲のような様相を呈しているが、本音の部分で巨人以外の5球団はリーグ間格差の要因をDH制にあると認めていないのではないか。有力な原因が他にあるのなら、そこを直視し、改善を試みるべきだろう。

 

<この原稿は2021年1月17日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

 


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