これはいかん、な話。

 

 前日のことだ。立派なファンとして育ってもらうべく、名前に虎の字を埋め込んだ息子が見慣れないものを持っている。白地に青ストライプが入ったバッグ、青のタオルとマスク。問い詰めると、学校で生徒全員に配られたのだという。

 

 保護者宛てのメッセージもあった。

 

「このたび、神奈川県の子供たちに向けて、この状況下でも、健康に気をつけながら野球・スポーツを楽しんでほしい。そんな想いから、フェースカバー(マスク)とタオルをセットにしてプレゼントさせていただきます。元気にスポーツを楽しんでいただけたら幸いです」

 

 文末には横浜DeNAベイスターズ監督・コーチ・選手・職員一同とあった。阪神ファンとしてこれはいかん。チャンカワイである。

 

 惚れてまうやろ、である。

 

 話変わって、これはいいか、と思ったのは高校サッカーのロングスロー。

 

 わたしが若年層の指導者だったとしたら、たぶん、やらない。なぜって、W杯などでは使えないと思うから。自分たちよりもはるかに大きな相手と戦う時は、使えない武器だと思うから。

 

 でも、対戦相手が使ってくる分には、まあいいことだと思うようにする。対策を立てることによって、守りの意識や方法は磨かれていくだろうし、何より、安易にタッチラインに蹴りだせなくなるのが大きい。

 

 単純なクリアが即ピンチにつながるとなれば、選手たちは嫌でも自陣からつなごうとする。ポゼッションにこだわり、ベンチから「蹴るな、つなげ!」と怒鳴るより効果的だったりして。

 

 ちなみに、サッカーに限らず、高校生のスポーツで論争が起こるたびに考えさせられるのが「高校生らしいかどうか」という問題。

 

 プロの世界ではマリーシアだとして認められている行為が、高校サッカーでは非難の対象になったりもする。ルールに反していないのならば認めるのか、逆にプロに対しても高校生らしさ、言ってみれば日本社会が若者に求める基準を当てはめるのか。時間が経てば答えは出るのだろうが、どちらになるのか、いまのわたしはまったく予想がつかずにいる。

 

 予想がつかないといえば、東京五輪、いよいよ先が見えなくなってきた。各種世論調査では、8割以上の国民が中止、もしくは延期を求めているという。先に音をあげるわけにはいかん、あげたら金銭的負担を押しつけられると思い込んでいるらしいIOCと日本側がチキンレースに突入したことが、仕方のないこととはいえ、なおさら国民の不信感を煽っている。

 

 興味深いのは、五輪に対する反感がこれだけ募っているのに、大相撲は行われ、プロ野球、Jリーグも開幕へ向けて動きだしているということ。もちろん、反対する声もあるのだろうが、8割には遠く至っていない、というのがわたしの肌感覚。

 

 これ、五輪に比べるとプロ野球やJリーグが習慣、つまり文化として根付いている証であると同時に、司る人の失言や失策がないのも大きいのでは、という気がする。8割反対というのは、五輪に対してというより、国民に我慢を強いながら自分たちは平然と会食を楽しむ方々への怒りを表す数字ではないかと。

 

 遺憾な話ではありますが。

 

<この原稿は21年1月21日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから