奈良県立御所実業高校は、全国高等学校ラグビーフットボール大会(通称・花園)に13度出場し、4度の準優勝を誇る。“公立校の星”と呼ばれるほどの強豪校に押し上げたのが、1989年からラグビー部監督を務める竹田寛行だ。御年60歳。昭和、平成、令和――。3つの時代を駆け抜けてきた竹田のラグビー人生を辿る。

 

 昨年12月から今年1月にかけて行われた全国高校ラグビー大会は、記念すべき100回目の花園となった。竹田率いる御所実業は奈良県代表として出場。昨年5月に還暦を迎えた竹田は、今年3月で定年となるため、“教師生活”最後の花園だった。

 

 竹田と御所実業(前身の御所工業時代も含む)にとって13回目の花園は、報徳学園(近畿オータムブロックチャレンジ代表・兵庫県)、國學院栃木(栃木県代表)、東海大相模(関東オータムブロックチャレンジ代表・神奈川県)と私立の強豪校を撃破したが、「4試合戦い抜く力をつくれなかったことが事実」とベスト8で終わった。

 

 公立校で唯一2年連続8強に残ったが、準々決勝で前年度決勝を戦った王者・桐蔭学園(神奈川県代表)に7-50と完敗を喫した。「15名で戦ったのか25名で戦ったのかの差」(竹田)。御所実業が準々決勝までの3試合、メンバーをほぼ固定して戦っていたのに対し、桐蔭学園は1試合平均20人以上がプレーした。スコアも接戦続きだった御所実業とは違い、各試合で差を付けて勝ち上がってきた。ノーサイドも一度もリードを奪えることなく、“東の横綱”と称されていた桐蔭学園に伍することができなかった。

 

 前年のリベンジは果たせなかったものの、“やり切った”という思いもある。だから選手たちを責めることは一言も発しなかった。1年間、一緒に戦い抜いた選手たちを称え、そして大会開催に尽力した関係者には感謝の意を述べた。

「大会中1人もコロナの感染者が出なかったことはすごいこと。大会を生徒の将来のために開催していただいた。世の中が大変な時期に大会を無事に開催できたことで、多くの人に勇気を与えたと思っています」

 

 変化を恐れぬ起用法

 

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、昨年度のチームづくりは苦心した。3月から休校。寮にいた部員の多くが実家に戻った。自粛期間中は毎日のようにオンラインミーティングを実施したが、全体練習を再開できたのは6月1日からだ。それでもはじめはコンタクト練習もままならなかった。新入生たちがチームに馴染む時期を遅らせたことは間違いない。それは「例年は4、5人」という花園のメンバー入りする1年生の数が、今年は1人だけだったことからもわかる。

 

 竹田は前回の花園で4トライを挙げたWTB安田昂平(3年)をSOにコンバートする大胆な策を講じた。50m6秒を切ると言われる快速トライゲッターをあえて司令塔役を担わせたのには以下の理由がある。

「特に強いチームと当たるとボールタッチの回数が少なくなる。ボールタッチの回数を増やすためにSOにしました。常にカウンターを狙い、ボールを動かすことができるようポジション。安田はキックも蹴れるし、パスもできる。また存在感で相手のディフェンスを食い止めておけることで周りの人間にもチャンスが生まれると考えました」

 

 変化を恐れない竹田らしい起用法だ。「ポジションを固定することはなく。1、2、3番がトライを取ったり、パスもする。ヨソがやらないようなことをやり、人がいないところに人を置く。そういう戦術を目指しています」。型にはめない指導法も竹田の特徴だ。安田は最後の花園でトライこそ奪えなかったが、大会優秀選手賞に選ばれた。

 

 3年生は次のステージへ。既に御所実業の新チームは始動している。「毎年この時期は全く違うチームになる。1年かけ、これからスタートする。いつも白紙の状態」と竹田。新チームは1月に奈良県予選を突破し、2月13日に滋賀で行われる予定の第72回近畿高等学校ラグビー大会への出場を決めた。竹田は定年後も非常勤講師として御所実業に残る。引き続きラグビー部の指揮を執ることに変わりはない。

 

 竹田が生まれた徳島県脇町(現・美馬市)は、四国のラグビー発祥の地として知られる。さらに父と叔父はラガーマン。竹田自身も身体を動かすのは好きだった。ラグビーを始めるきっかけは幾つもあったが、竹田は楕円球を追いかけるよりも、白球を追いかける野球少年だった。

 

(第2回につづく)

 

竹田寛行(たけだ・ひろゆき)プロフィール>

1960年5月8日、徳島県脇町(現・美馬市)生まれ。中学時代は野球部と陸上部に所属。脇町高校に進学後、ラグビーを始める。ポジションはLO、No.8。脇町高、天理大学、奈良クラブを経て、現役引退。89年、御所工業高校(現・御所実業高校)ラグビー部監督に就任した。95年度に全国高校ラグビー大会(通称・花園)初出場を果たすと、08年度に準優勝。御所実業を13度の花園出場、4度の準優勝に導いている。そのほか全国大会では国民体育大会2度優勝、全国高校選抜大会で2度の準優勝。今年3月で定年を迎えるが、非常勤講師としてラグビー部の指導を続ける。

 

(文/杉浦泰介、写真/御所実業高校ラグビー部)

 


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