こんにちは、白寿生科学研究所の岸川です。1カ月遅れではございますが、本年も弊社・小野仁ともども白球徒然をどうぞよろしくお願いいたします。


 年末年始はどのようにお過ごしになりましたか? 私は食料の買い出しと父親の墓参りに出掛けた程度で、あとは自宅の大掃除に明け暮れていました。

 

 今年は延期になった東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定されていますが、果たしてどうなるのでしょうか。今は寒さの影響もあるのか、再び新型コロナウイルスが猛威をふるっています。医療従事者の方々は最前線で懸命に闘っており、そういう人たちに感謝をすると同時に、我々は医療崩壊をさせないためにも一人一人が「感染しない」「感染させない」自覚を持ち行動することが大事になってきますね。

 

 この先の状況は不透明ですが、4年に一度のスポーツの祭典がこの東京で行われることを切に願っております。

 

 さて、前回まで小久保裕紀さんについて書きました。今回は私が見てきた超一流の男たちの2人目として、高橋由伸前監督のことを取り上げたいと思います。

 

 私が打撃投手を16年間務めた中で一番長く、彼の現役が終わるまでの約9年間を個人練習パートナーとして一緒に過ごしました。そのこともあって彼とは大変気心の知れた間柄です。幼少期には家の裏に生えていた竹を父親が切り、自分の身長以上あるその竹を毎日振り込んであの美しいスイングを作った。そういう話もしてくれました。

 

 類いまれな才能とともに小・中学校では数々の大会で優勝、高校は名門・桐蔭学園(神奈川)に進み、甲子園大会に2度出場。その後、慶応義塾大では東京六大学リーグで1年生からレギュラーとして活躍しました。4年間でかけたアーチ23本は六大学新記録となり、これは未だ破られていません。

 

 こうして書いてみるとまさにスーパーエリートですね。そんな高橋由伸という人物を皆さんはどの様な人間だと思いますか? 実はテレビなどマスコミで伝えられるクールな彼と、普段私達に接する高橋由伸にはかなり違いがあります。

 

 といっても、裏表があるというわけではありません。性格は明るく仲間想い。後輩たちからの意見、質問にも真摯に答えてくれる彼の周りには自然と人が集まって来ます。ときには後輩に厳しい意見も言いますが、決して怒鳴ったりしません。一方的に意見するだけではなく、それぞれの選手に何が必要なのかしっかり考えさせて、そのチョイスが合っているか対話をしながらコミュニケーションをとっていました。

 

 そしてその行動は私達裏方に対しても同じです。選手と裏方という垣根を越え、同じユニホームを着た仲間として大事に扱ってくれました。

 

 そんな彼との付き合いは小久保選手がFAでソフトバンクに戻った2006年オフから始まりました。当時、高橋選手の練習パートナーが他部署に異動することになり、左投手を探していた高橋選手から「手伝ってもらえますか?」と声を掛けてもらいました。

 

 天才と言われてきた高橋由伸は何をもって天才なのか? 彼の練習パートナーになって、気付かされたことがいくつもありました。

 

 普段は物腰柔らかな感じなのですが、試合になると表情が一変し、気迫あふれるプレーでチームを引っ張ります。ひとつのアウトをとるためには体を張り、ケガをも恐れずフェンスにぶつかりながらでも捕球したり、ダイビングキャッチを試みたりとチームを何度も救いました。それと同時に、戦線離脱してしまう程の大ケガを何度もしています。

 

 打撃に関しても入団7年目で1000安打と、もの凄いペースで打ちまくり名球会も確実と言われていましたが度重なるケガに泣かされ、「1500安打まで1000本と同じ7年もかかったよ」と、笑いながら話をしてくれたことを覚えています。

 

 とても熱い男である高橋由伸という人間の練習パートナーとして、二人三脚でやってきたことを私は今でも誇りに思っております。次回は彼との練習でのエピソードに触れてみたいと思います。お楽しみに!

 

 

<岸川登俊(きしかわ・たかとし)プロフィール>
1970年1月30日、東京都生まれ。安田学園高(東京)から東京ガスを経て、95年、ドラフト6位で千葉ロッテに入団。新人ながら30試合に登板するなどサウスポーのセットアッパーとして期待されるも結果を残せず、中日(98~99年)、オリックス(00~01年)とトレードで渡り歩き、01年オフに戦力外通告を受け、現役を引退した。引退後は打撃投手として巨人に入団。以後、17年まで巨人に在籍し、小久保裕紀、高橋由伸、村田修一、阿部慎之助らの練習パートナーを長く務めた。17年秋、定年退職により退団。18年10月、白寿生科学研究所へ入社し、現職は管理本部総務部人材開拓課所属。プロ野球選手をはじめ多くの元アスリートのセカンドキャリアや体育会系学生の就職活動を支援する。


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