キャンプ取材が恋しくなってくる。

 コロナ禍にある2021年も1月半ばから2月中旬に掛けて、Jリーグのクラブは九州地方を中心にそれぞれ強化キャンプを張っている。キャンプ取材は筆者も毎年恒例にしているのだが、今年は社会状況も鑑みて自粛することにした。感染対策の観点から完全クローズにしているクラブや取材を制限しているクラブもあり、取材するのが難しいという事情もある。来年の楽しみに取っておくことにしたい。

 

 言うまでもなくキャンプ取材は大切だ。毎年2、3クラブしか回れないのだが、関係者も多く集まってくるとあって前評判のいいチームや新戦力の評価など、いろんな情報が入ってくる。そして何よりも選手やスタッフとじっくりと話をすることができる。

 

 1年前、話を聞きたかったひとりがV・ファーレン長崎をけん引するベテラン、玉田圭司であった。宮崎キャンプの初日に顔を出したところ、実にいい表情をしていた。前年のJ2シーズン、移籍1年目で12位に終わったとあってキャンプ地を訪れるまでは肩にちょっと力が入っている姿を想像した。だが実際は逆。肩の力がいい感じで抜けていた。

 

 そう伝えると、彼はこう応じた。J1参入プレーオフに届かなかったことがきっかけで得た感覚があったという。

「プレーオフ出場が途絶えたなかで、残りのリーグ戦で何を目指していけばいいんだろうって思ったんです。大事な試合じゃない試合はないし、大事じゃない日はない。とにかくプレーを、サッカーを楽しんで来年につなげようと思っていたら“ああ、この感覚だよな”って。シーズンの最後のほうが自分のプレーを出せているなって感じることができたんです。元々、意識してきたものなのに、薄れていたんじゃないかって」

 

 プレーを楽しもう、サッカーを楽しもう、その原点回帰。

 その目線で見ると、毎日のトレーニング自体を楽しんでいた。ある日の練習終わり、ずっとFKを蹴っている姿があった。練習というよりも遊び。GKを立たせ、PKを決めるかのごとく何本も連続で決めていく。テクニシャンで知られるチームの「10番」ルアンも驚きの声を挙げていたほどだ。

 

 ベテランが醸し出す雰囲気は、チームにいいメリハリを与えていた。キャンプ取材で感じることができたチームへの好印象。最終的には3位でJ1昇格に届かなかったものの、「去年の長崎とはひと味違う」という印象を抱いた。

 

 玉田は25試合に出場して6ゴールとまずまずの成績。J通算500試合出場となった10月21日の愛媛FC戦では直接FKをゴールに叩き込んでいる。楽しそうにプレーしているのがよく分かる。

「結果を求めながらも、楽しむという気持ちをもってそのなかでチームを引っ張っていくほうがが自分らしいし、結果もついてくるのかなって思いましたね」

 

 あのときキャンプで聞いた言葉をまさに実践して、結果にも結びつけてきた。「FKも年々うまくなっている」と頼もしい。

 玉田は1980年生まれ。4月には41歳になる。同い年の中村憲剛、大黒将志が引退を表明してピッチを去ったが、彼はまだまだ意欲十分である。

 

 実際に“危機”もあった。

 9年間在籍した名古屋グランパスから契約非更新を告げられ、当時J2のセレッソ大阪に入団した2015年シーズン。周囲からは自分に対して疑うような視線も感じていたという。だが開幕2戦目の大宮アルディージャ戦で2ゴールを挙げ、“年齢など関係ない”と健在ぶりを見せつけた。この年、4シーズンぶりに2ケタ得点をマークしている。

 

「外から見たら年齢も年齢だし、段々と下降していって数年後に終わっちゃうんだなあって思われているんだろうなと感じていました。あの試合で“まだやれる”って証明できたからこそ、40歳になってもこうやってサッカーができていると僕は思っている」

 逆境に立たされたときこそ、原点に戻ってサッカーを楽しんで結果を出していく。それが玉田圭司である。

 

 キャンプ取材もできていないため、筆者の玉田情報はアップグレードされていない。ただその分、楽しみなところもある。今年こそはJ1。肩ひじ張らず、41歳のシーズンを楽しもうとしている彼の姿は容易に想像できる。


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