キャンプ中、女性との交際に目を光らせた監督は何人も知っている。だが、若い女性の携帯電話の番号を練習の“賞品”に使った監督はカープのマーティ・ブラウン(45)くらいのものだろう。

 選手全員参加の2マイル(3.2キロ)走。開始前にブラウンは言った。
「この(紙包みの)中に若い女性5人分の電話番号とメールアドレスが入っている。欲しかったら頑張ってください」
 若い女性の連絡先が手に入ると聞いて、選手全員(?)が目の色を変えた。

 結局、トップは昨季の高校生ドラフト1巡目ルーキー前田健太、野手のトップは6年目の木村昇吾だった。
 レース後、前田と木村には約束通り、喉から手が出るほど欲しい“個人情報”がブラウンから直々に手渡された。

「前田の紙包みには若い人の番号が入っていると思いますが、若い人がイヤならアレックスが狙っているかもしれませんよ」
 とブラウン。前田に手渡された紙包みを横取りしようとしたルーキーの松山竜平(九州国際大)は「楽しい球団に入れて幸せです」と語ったという。

 前代未聞のニンジン作戦を考えついたのは、もちろんブラウンだ。
 前夜、宿舎のバーでくつろいでいたブラウンはスタッフに魅力的な女性が多いことに気がついた。持ち前の明るさで彼女たちに近づくとこう切り出した。
「ウチのチームには若くて魅力的な独身男性が多い。キミたちの電話番号とメールアドレスを、彼らのとを交換しないか」

 彼女たちにとっても、これは悪くない提案である。こうしてブラウンは“お宝”をゲットすることに成功したのである。
 このことをスポーツ紙で知った、あるベテラン監督は「それが監督のやることか」と眉間にシワを寄せて吐き捨てたというが、若手を鍛えるのは何もムチばかりではない。こうした“アメ”も時にはあっていいのではないか。

 それでなくてもカープは昨オフ、エースの黒田博樹(現ドジャース)、4番の新井貴浩(現阪神)が相次いでFA権を行使してチームを去っていた。
 エースと4番のいないキャンプは想像するだけで寒々しい。厳しい中にも笑いのあるキャンプ――これが若手を成長させ、チームを活性化させるのはないか。

 まさか、このニンジン作戦が効いたわけではあるまいが、翌日以降、前田はブルペンで快調なピッチングを続けているという。
 昨季はウエスタンリーグで5勝8敗、防御率3.99という成績ながら、カープの中では最も多くのイニングをこなしたピッチャーである。今季が楽しみだ。

 ブラウンといえば来日1年目は抗議の際のベース投げをパフォーマンスにして人気を集めた。
次は“お宝”作戦か。次から次へとユニークなアイデアをよく思いつくものだ。これだけは感心する。

<この原稿は2008年2月24日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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