右サイドを颯爽と駆け上がる姿で、多くのサッカーファンを魅了した名良橋晃さん。日本が誇る名サイドバックと当HP編集長・二宮清純が、日本サッカーの過去・現在・未来を語り合う。特に、進化を続けるポジションである「サイドバック」視点からの語らいは、大いに熱を帯びた。

 

二宮清純: 名良橋さんは、鹿島アントラーズでジーコとトニーニョ・セレーゾ、日本代表でロベルト・ファルカンの指導を受けていらっしゃいます。ブラジルの「黄金カルテット」のうち、3人(残りの1人はソクラテス)から教わったというのは、すごいことです。

名良橋晃: 本当にありがたいことです。私にとって、かけがえのない財産であり、自慢でもあります。

 

二宮: 華麗なプレーが印象的な3人ですが、みな基本を大事にしていたそうですね。

名良橋: はい。特にセレーゾは、「(ボールを)止める」「蹴る」そして、「守備のポジショニング」という基本を大事にしていました。基本をおろそかにするようなプレーをすると、すごく怒られました。

 

二宮: ジーコはどうでしたか。

名良橋: よく、「お前はサイドバックなんだから、まずは守備から入りなさい。勢いで前に行ったらお前の後ろがやられる。だから、守備を疎かにせずに、いいタイミングで効果的に上がりなさい」と言われました。あと、ジーコは、「つるべの動き」も大事にしていましたね。

 

二宮: ああ、両サイドにおいて、右サイドが上がれば左サイドが下がるといったバランスをとる動きですね。

名良橋: はい。一つ一つの言葉に重みがありました。鹿島では、そうした素晴らしい出会いがたくさんありましたが、なかでもいちばんの大きかったのは、元ブラジル代表のジョルジーニョと一緒にプレーができたことです。

 

二宮: ジョルジーニョは、ブラジルの歴代右サイドバックのなかでも屈指の評価を得ている名選手です。どういう点をいちばん教わりましたか。

名良橋: クロスの質ですね。インフロントだけではなく、インステップで蹴るクロスやインサイドで蹴るクロスなど、たくさんのことを見て学びました。

 

二宮: なるほど。よく「クロスの質」という言葉を聞きますが、具体的にはどういうことなのですか。精度? 強さと速さ? それともボールの回転?

名良橋: もちろん、それらすべてが重要です。私は相手を抜き切らなくても、マークを少し外して入れるクロスを大事にしていました。

 

二宮: 当時の鹿島には、黒崎久志選手や長谷川祥之選手など背の高いツートップがいて、空中戦に強かった。ジョルジーニョは彼らの頭に当ててゴールしているような気がしました。

名良橋: そうなんです。例えば、柳沢敦選手は点と点で合わせるのがうまい選手だったので、ニアに早いクロスを入れるとか、常にメッセージ性を考えながらクロスを入れていました。

 

二宮: つまり、味方の選手たちのストロングポイントやウイークポイントを全部理解したうえで、クロスを入れていたわけですね。ところで、鹿島はブラジルサッカーの流れがずっとあります。いろいろな国の監督が就任するチームもありますが、名良橋さんはどう思いますか。

名良橋: 当然、メリットとデメリットの両面があると思います。でも、急にスタイルが変わると選手は戸惑いますし、定着するまでにかなりの時間が掛かります。この先、鹿島のサッカーがどう変わっていくのかはわかりませんが、ジーコという土台があるので、OBとしては、そこは変えてほしくないなと思います。

 

二宮: 確かに、鹿島には“ジーコスピリッツ”という芯のようなものがありますね。

名良橋: 選手だけではなく、フロントにもそういう太い幹があります。ジーコの理念に基づいてクラブとしても大きくなってきたし、それがあるからこそ、Jリーグでいちばん多くのタイトルを獲得できたんだと思います。

 

二宮: 専門的なことをお聞きしたいのですが、名良橋さん著書『サイドバック進化論』(光文社新書)に、「右利きの左サイドバックは難しい」と書かれていましたが、これはどういうことですか。

名良橋: 右利きの選手は、ボールをもらうときにどうしても右足でコントロールすることが多くなります。するとファーストタッチが相手に近くなるので、すぐに詰められる。左利きであれば、タッチライン側にボールを置くことできます。結果として、相手をボールから少し遠ざけることができ、視界が広がるので、自分の間合いも作りやすいんです。

 

二宮: マッチアップしたときにやりやすいということですね。今のサイドバックは、昔と違い、求められる役割が多い。サイドを前後動するだけではなく、中にも切り込まなければならない。ゲームメイクする能力も必要とされています。

名良橋: 現代サッカーではいちばん大事なポジションだと思います。言い方が悪いですが、昔は“使われる”ことが多かったけれど、今は“使う側”にもなっている。どれだけゲームを組み立てられるかという点でも、主導権を握れます。また守備の面でも、今は4-3-3が主流になっているため、マッチアップが増えたりして、いろんなことが求められるやりがいのあるポジションだと思います。

 

(詳しいインタビューは3月1日発売の『第三文明』2021年4月号をぜひご覧ください)

 

名良橋晃(ならはし・あきら)プロフィール>

1971年11月26日、千葉県千葉市出身。小学校からサッカーを始め、千葉英和高校を卒業後、90年にJSL(日本サッカーリーグ)1部のフジタ(現・湘南ベルマーレ)に加入。攻撃的サイドバックとしてチームを牽引し、93年のJFL(日本フットボールリーグ)ではアシスト王に輝く。94年3月にJリーグデビューを飾り、同年9月、日本代表戦に初出場した。97年の鹿島アントラーズ移籍後は、日本代表にもレギュラーとして定着。日本が初出場した98年のフランスワールドカップでは、右ウイングバックとして全3試合に先発出場した。2007年に湘南ベルマーレに復帰し、08年2月に現役を引退。現在はテレビ中継や衛星放送などで解説を務める傍ら、SC相模原ジュニアユースの総監督として、後進の育成にも尽力している。Jリーグ通算310試合出場、23得点。国際Aマッチ38試合出場。


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