パンデミックによりインバウンド需要への期待がしぼんだ今、菅内閣が次なる成長戦略の柱に据えるのは、「グリーン」と「デジタル」の2本である。これを「ポストコロナにおける成長の源泉」(菅義偉首相)と位置付け、政府は前者に2兆円の基金を創設、後者には1兆円規模の経済対策を盛り込んだ。世界には「周回遅れ」との見方もあるようだが、ここで追走を諦めれば、その時点で「先進国脱落」と見なされかねない。ここは踏ん張りどころだ。

 

 プロ野球も踏ん張ってもらいたい。いや、忘れないでもらいたい。NPBが<野球の力で温暖化ストップ!>と意気込んだのは2008年のことだ。具体的な目標も設けた。<①試合時間短縮を実現するために、各球団に試合時間短縮担当責任者を置く。②審判員は、監督・選手および球団関係者で試合進行に非協力的な者をリーグにレポートする。リーグは球団(担当責任者)に連絡して、改善を求める>(グリーン・ベースボール・プロジェクトより。以下GBP)

 

 延長線上の施策としてNPBは09年、「試合時間3時間以内(9回)」を目標に掲げた。達成度合いはともかく、温暖化という地球規模の問題に向き合おうとする姿勢は真摯に映った。

 

 その2年後の11年3月11日、「1000年に一度の大地震」が発生する。約2万2000人の死者・行方不明者を出した東日本大震災だ。地震の影響で福島第一原発の原子炉はメルトダウンを起こし、東京電力は計画停電に踏み切った。その影響でプロ野球の開幕は約2週間遅れた。電力不足が深刻さを増すなか、試合時間の短縮は「目標」から「義務」に切り替わった。この時ほどGBPの履行が強く求められたことはない。言うまでもなく野球は「間」のスポーツである。多くのファン同様、時間に制約されないところに私も魅力を感じている。だが、「間」と「間延び」を同列に扱ってはならない。加えていえば、コロナ禍の今は「平時」ではなく「非常時」だ。選手や観客の安全性を確保する上でも接触時間の短縮は避けては通れない。

 

 ちなみに昨季の試合時間(9回)はセが3時間10分、パは3時間16分。「3時間以内」を目標に掲げた09年(セは3時間7分、パは3時間9分)に比べ、セは3分、パは7分も後退している。あの意味込みは何だったのか。今一度、GBPの原点に立ち返ってもらいたい。

 

<この原稿は21年3月10日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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