(写真:2月のRISE横浜大会で1年5カ月ぶりの再戦となった志朗に完勝した那須川 ⓒRISE)

「究極の心理戦でした。格闘技っていろんなパターンがあるんです。打ち合いも面白いと思いますが、駆け引きの中で差をつけて勝つことができて嬉しい。改めて自分も強くなったと思います。自分はこれからボクシングに行くとか、いろんな試合があるとか言われているんですけど、キックボクサーとしての時間は、もう少ないんですよね。キックボクシングを去るまで無敗でいきたい」

 2月28日、横浜アリーナで開催された『RISE ELDORADO2021』のメインエベントで志朗に3-0の判定勝ちを収めた直後に、那須川天心は、そう話した。

 

 天心のプロボクサー転向は既定路線。すでに、そこに向けての練習も始めている。キックボクサーとしてリングに上がるのは、あと1年ほどだ。

 

 RISE伊藤隆代表は、次のように語る。

「天心がRISEのリングに上がるのは、あと2試合になると思う。花道に相応しい試合を組んでいきたい。次はムエタイのチャンピオンクラスを呼ぶつもり。そして、来年の2月か3月に『天心ファイナル』を開催して彼を送り出してあげたい」

 

 さて、気になるのは、武尊との頂上対決が、実現するか否か──。

 昨年の大晦日、『RIZIN.26』(さいたまスーパーアリーナ)に、武尊が姿を現した。そして、天心が試合を終えた後、2人は言葉をかわす。また、メディアに対して武尊は言った。

「ファンの方を長い間待たせている自分と那須川天心選手の試合を、来年(2021年)に実現させるとの決意を込めて、ここに来ました。自分よりも強いと言われているヤツがいることが許せない。いろいろな問題をクリアし、RIZINでもK-1でもない中立なリングで闘いたい」

 

 実現の可能性が高い2大会

 

(写真:キックボクシング、MMAの公式試合では依然として無敗をキープしている ⓒRISE)

 実際、「もうできないのではないか」と思われていた那須川天心vs.武尊が、実現に向けて動き出している。まだ具体的な話には入っていないとはいえ、K-1、RISE、RIZINの関係者が同じテーブルにつき、「ドリームマッチを実現しよう」「2人を闘わせてあげたい」と意思確認をした。だからこそ、武尊はRIZINの会場を訪れたのだ。

 交渉の進展具合は明かされていないが、実現するならば以下の2つが濃厚視される。

 

 まず、秋の東京ドーム。

 本来なら、2月28日に東京ドームで『MEGA2021』が開催されるはずだった。だが、このフロイド・メイウェザーを軸に据えたイベントは諸事情により延期となっている。もし、秋に行われるとなれば、ここで2人の対戦が実現する可能性がある。『MEGA2021』ならば、「RIZINでもない、K-1でもない中立なリング」ということになる。

 

 もう一つは大晦日決戦。

 この場合、舞台はRIZINとなる。中立ではなくなるが、世紀の一戦は、格闘技がもっとも盛り上がる時期における実現が相応しい。おそらくは今年もフジテレビで全国に生中継されることだろう。多くのファンに観てもらいたいと考えるのであれば、関係者の話し合いの末、ここに落ち着くかもしれない。

 

 那須川天心vs.武尊が実現するか否か……そこに、格闘技界の未来がかかっている。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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