(写真:拳四朗は1年半ぶりのリングでどんなファイトを見せるのか)

「ここまでは、凄く順調です。もちろん勝つ自信はあります。たくさんの人に迷惑をかけ、応援してきてくれた人たちを裏切ってしまった。(それでも応援してくれる人たちに)強い姿を見せないといけない。ただ勝つだけではなく圧勝します」

 4月5日、東京・三迫ジムで行われた公開練習の後に、寺地拳四朗は、そう話した。

 

 延期されていたWBC世界ライトフライ級タイトルマッチ、王者・寺地拳四朗(BMB)vs.挑戦者・同級1位/久田哲也(ハラダ)が、4月24日にエディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)で行われる。

 

 この一戦、本来なら昨年12月に実現しているはずだった。延期となったのは、コロナ禍の影響ではない。拳四朗が不祥事を起こしたからだ。昨年夏、泥酔して都内のマンションに侵入し他人の車を傷つけてしまう。この騒動に対してJBC(日本ボクシングコミッション)は、12月1日から3カ月間のライセンス停止、制裁金300万円の処分を下した。これが2月末日をもって解除されたことにより試合が行われる運びとなったわけだ。

 

 挑戦者の久田は36歳のベテラン。戦績34勝(20KO)10敗2分けの右ボクサーファイター。2017年4月に日本ライトフライ級王座を獲得、5度防衛した後にベルトを返上。一昨年10月には、WBA世界ライトフライ級スーパー王者・京口紘人(ワタナベ)に挑むも0-3の判定で敗れた。それ以来、約1年半ぶりのリングインとなる。

 

 実績面を見れば、拳四朗が圧倒的優位だ。

 世界の強豪を相手に、これまで世界王座7度の防衛を果たしており、久田とは闘ってきたステージが違う。テクニック、スピードにおいてもワンランク上。「普通に考えれば」拳四朗にとってイージーファイトだろう。

 

 拳四朗のメンタルが問われる

 

 さて今回の試合、果たして大方の予想通りの結果となるだろうか?

 意外な結末を迎える可能性も多分にある。それは、「普通に考えられない」シチュエーションにあるからだ。

 

 ポイントは、拳四朗がこれまでと同じような精神状態でリングに上がれるか否か。

 彼は、愛されキャラを培ってきた。試合後に笑顔でピースをするなど、強さとはミスマッチな、ゆる~いキャラがファンに受けていた。だが、昨年の騒動を経て、これまでと同じように振舞うわけにはいかないだろう。ファンの視線は厳しくなっている。

 

 これまでとは異なる雰囲気の中での闘いで、集中力を切らすようなことがあれば、そこをベテランの久田に突かれかねない。

 

 4月7日には、久田がリモートで練習を公開している。

「待たされた分、ヒサダ百裂拳をお見舞いしてやりますよ」

 そうおどけた後、久田は続けた。

「作戦はある。勝つ自信しかない」

 何とも不気味だ。

 

 もしアップセットを起こすならば、久田が36歳5カ月で世界のベルトを腰に巻くことになる。これは3階級制覇王者・長谷川穂積の35歳9カ月を抜く国内最年長記録だ。

 

 浪速の春舞台、寺地拳四朗が復活を賭けた一戦、行方はいかに──

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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